労働安全衛生法においては、職場で働く労働者が有害な化学物質にさらされることによる職業性疾病の発生を防止することを目的とし、既存化学物質の有害性の調査を事業者が行う(第57条の4)ほか、国自らも行うこととしている(第57条の5)。これにより厚生労働省は、既存化学物質の中から、製造量、用途、これまでに得られている有害性の知見等を勘案して調査すべき物質を選び、染色体異常試験のほか、実験動物によるがん原性試験を実施している。
がん原性試験とは、複数(ラット、マウス)の動物種に対して化学物質をほぼ生涯(2年間)投与(吸入ばく露、経口投与)し、臓器の変化等によりその化学物質のがん原性を調べるものである。動物への投与経路は化学物質の性状によって異なり、吸入ばく露では吸入チャンバー内に動物を収容し、化学物質を週5日間1日当たり6時間、全身ばく露を行う。経口投与試験の混水経路は化学物質を飲料水に混ぜて動物に自由摂取させ、混餌経路は化学物質を餌に混ぜて動物に自由摂取させる。試験に先立ち、用量を決定するための予備試験、すなわち2週間試験および13週間試験を行う。このため、ある被験物質についてがん原性試験を行って報告がなされるまでには4年以上を要することになる。試験は、OECD、安衛法試験ガイドラインに準拠し、また、OECD、安衛法GLP(優良試験所規範)に対応して実施されている。
(1) 2週間試験
信頼のおける文献、あるいは簡易な予備試験等より動物に投与する化学物質の用量を決め、5段階程度の用量の群及び物質を投与しない対照群を設け、雌雄のラット及びマウスに2週間にわたって投与を行い、限られた項目について検査を行い、その結果に基づきより長い13週間試験の用量を決定する。
(2) 13週間試験
2週間試験の結果より動物に投与する用量を決め、5段階程度の用量の群及び対照群を設け、雌雄のラット及びマウスに13週間にわたって投与を行い、一般状態の観察、体重及び摂餌(水)量の測定、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学的検査を行い、その結果に基づきがん原試験の用量を決定する。
(3) がん原性試験
13週間試験の結果より動物に投与する用量を決め、3段階の用量の群及び対照群を設け104週間(2年間)にわたって雌雄のラット及びマウスに投与を行う。一般状態の観察、体重及び摂餌(水)量の測定、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学的検査を行う。病理組織学的検査の結果に基づき、がん原性を検索するとともに、慢性毒性についても可能な限り検索する。