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【要約】

　アリルアルコ−ルのがん原性を検索する目的でF344/DuCrlCrljラットを用いた吸入による2年間（104週間）の試験を実施した。
　本試験は、対照群1群及び被験物質投与群3群の計4群の構成で、各群雌雄とも50匹とし、合計400匹を用いた。被験物質の投与は、アリルアルコ−ルを1日6時間、1週5日間、104週間、動物に全身暴露することにより行った。投与濃度は、雌雄とも0（対照群）、4、10及び25 ppm（体積比v/v）とし、観察・検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。
　アリルアルコール投与による最終生存率への影響は、雌雄とも認められなかった。また、一般状態観察でも、アリルアルコール投与に関連した特徴的な所見あるいは異常所見の増加は認められなかった。体重は、25 ppm群で雌雄とも投与期間を通して有意な低値を示し、体重増加の抑制が認められた。4及び10 ppm群では、雄は投与期間初期と終期に、雌は投与初期に低値を示した。なお、最終計測日の25 ppm群の体重は、対照群に対し雄89 %、雌90 %であった。
　腫瘍性病変として、雄の肝臓で肝細胞腺腫の発生が、10 ppm群で有意な増加（Fisher検定）を示したが、高濃度の25 ppm群では発生増加はみられず、傾向検定（Peto検定、Cochran-Armitage検定）でも有意差を認めなかった。肝細胞腺腫の発生は、当センターのヒストリカルコントロールデータ（直近10年間、11試験、雄550匹）の範囲を僅かに超えた。しかしながら、肝臓腫瘍の前腫瘍性病変と考えられる好酸性小増殖巣の発生増加はみられなかった。これらの結果から、雄F344ラットの肝臓の肝細胞腺腫の発生は、発がん性を示す不確実な証拠であると判断した。雌では腫瘍の発生増加は認められず、雌F344ラットに対するがん原性を示す証拠は得られなかった。
　非腫瘍性病変として、雌雄の鼻腔に投与による影響が認められた。鼻腔の呼吸上皮に扁平上皮化生及び鼻炎の発生が雄の全投与群、雌の10 ppm以上の群で増加し、鼻炎については雄の10 ppm以上の群、雌の25 ppm群でその程度が増強した。
　以上より、F344/DuCrlCrljラットを用いて、アリルアルコールの2年間（104週間）にわたる吸入によるがん原性試験を実施した結果、雄F344ラットに対するがん原性を示す不確実な証拠が得られた（equivocal evidence of carcinogenic activity）。また、雌F344ラットに対するがん原性を示す証拠は得られなかった（no evidence of carcinogenic activity）と結論した。