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がん原性試験実施結果

酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のラットを用いた吸入投与によるがん原性試験結果の概要

【要旨】
 酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のがん原性を検索するために、酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)をF344/DuCrlCrljラットに104週間全身暴露(経気道投与)し、その生体影響を検索した。また、がん原性試験群とは別にサテライト群を設け、発がんとの関連を検索した。
 本試験は、がん原性試験群(各群雌雄50匹、合計400匹)及びサテライト群(各群雌雄10匹、合計80匹)ともに投与群3群、対照群1群の計4群を設けた。酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)の投与(暴露)濃度は、がん原性試験群及びサテライト群とも0(対照群)、0.5、2及び8 mg/m3とし、同一濃度同一チャンバーで投与(暴露)を行った。投与(暴露)期間は、1日6時間、1週5日間の全身暴露による経気道投与で、がん原性試験群は104週間、サテライト群は52週間とし、暴露及び飼育期間中、生死及び一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、尿検査(がん原性試験群)を行った。がん原性試験群は、暴露期間終了後、動物を解剖し、血液学的検査、血液生化学的検査、解剖時の肉眼的観察、臓器重量の測定、気管支肺胞洗浄液(BALF)検査、肺中酸化チタン量測定及び病理組織学的検査を行った。サテライト群は、52週間の暴露期間終了後、直ちに暴露チャンバーと異なるチャンバーに動物を移動し、清浄空気下で飼育を継続した。定期的(暴露終了翌日、暴露終了26週、暴露終了52週)に動物を搬出・解剖し、肉眼観察、臓器重量の測定、肺中酸化チタン量測定及び病理組織学的検査を行った。
 暴露の結果、がん原性試験群及びサテライト群の雌雄に生存率の低下は認められず、動物の一般状態に酸化チタンの影響はみられなかった。
 がん原性試験群では、雌雄の暴露群で暴露期間の初期に体重増加の抑制がみられ、雌雄の0.5 mg/m3群及び2 mg/m3群では、暴露期間の多くの週で体重の低値が認められた。しかし、この低値は、酸化チタンの暴露によるものとは考えなかった。摂餌量でも体重同様、雌雄の暴露群で暴露期間の初期に有意な低値がみられた。暴露期間を通して、雌雄の0.5 mg/m3群及び雌の2 mg/m3群では、低値の週が多くみられたが、酸化チタンの暴露によるものとは考えなかった。尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査では、暴露の影響は認められなかった。8 mg/m3群の雌雄で肺の実重量と体重比の高値がみられ、肺重量の増加が認められた。
 サテライト群では、暴露群の雄は、がん原性試験群と同様暴露期間の初期に軽度な体重増加の抑制がみられたが、その後は、対照群と大差なく推移した。雌は、対照群と同等か、それ以上で推移した。摂餌量は、雄では対照群との差はみられなかった。雌は、暴露期間初期に軽度な低値を示したが、その後は、対照群と差はなく推移した。
 病理組織学的検査の結果、がん原性試験群の雌雄の肺に腫瘍性病変が認められた。雄では、細気管支−肺胞上皮癌の発生が8 mg/m3群の2匹に認められ、Peto検定(有病率法)とCochran-Armitage検定で増加傾向を示した。8 mg/m3群の発生率は、当センターのヒストリカルコントロールデータの範囲の上限であった。一方、肺の総腫瘍(細気管支−肺胞上皮腺腫と細気管支−肺胞上皮癌を合わせた発生)の発生では、対照群と比較して有意な増加を認めなかった。したがって、雄の細気管支−肺胞上皮癌の発生は、発がん性を示す不確実な証拠(equivocal evidence of carcinogenic activity)と考えた。雌では、細気管支−肺胞上皮腺腫の発生が、対照群で1匹、0.5 mg/m3群で2匹、2 mg/m3群で3匹、8 mg/m3群で4匹認められ、統計学的な有意差は示されなかったものの、増加の傾向がみられた。さらに、8 mg/m3群における細気管支−肺胞上皮腺腫の発生は、当センターのヒストリカルコントロールデータを超えていた。したがって、細気管支−肺胞上皮腺腫の発生は発がん性を示す不確実な証拠(equivocal evidence of carcinogenic activity)と考えた。
 腫瘍関連病変として、雌雄の肺に粒子誘発による肺胞上皮過形成及び肺胞壁の線維化が認められた。解剖時の肉眼的観察では、がん原性試験群及びサテライト群の雌雄の0.5mg/m3群以上で肺の白色斑が全葉に散在性にみられ、酸化チタン貪食マクロファージを伴っていたことが病理組織学的に明らかにされた。両病変は、コレステリン肉芽腫や各種炎症細胞浸潤及び肺胞構造の破壊を伴っており、暴露濃度に対応した病変の強度の増強が認められた。8mg/m3群では過形成と線維化の病巣における癒合が顕著であった。特にサテライト群では、肺胞上皮の過形成が最低暴露群の0.5mg/m3群でも回復期間中に消失せず観察され、また、新たに肺胞壁の線維化が8mg/m3群の52週間回復群の雌雄で認められた。肺の炎症反応が継続して認められ、腫瘍関連病変は時間経過に伴い進展することが示唆された。
 肺中酸化チタン沈着量測定の結果、肺中の酸化チタンは暴露濃度に対応して増加した。2mg/m3群の雌及び8 mg/m3群の雌雄では、52週暴露解剖群(サテライト群)から予測された量より多くの酸化チタンが、がん原性試験群(104週暴露)で認められたことから、クリアランスの遅延が生じた可能性が考えられた。
 以上、酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)を0、0.5、2及び8 mg/m3の濃度で2年間にわたり雌雄のF344/DuCrlCrljラットに全身暴露した結果、雄の細気管支−肺胞上皮癌と雌の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生増加の傾向がみられた。したがって、本試験条件下において、酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)の雌雄ラットに対するがん原性を示す不確実な証拠(equivocal evidence of carcinogenic activity)と結論された。
酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雄)
酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット雄)
酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雌)
酸化チタン(ナノ粒子、アナターゼ型)のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット雌)