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がん原性試験実施結果

アクリル酸メチルのラット及びマウスを用いた吸入投与によるがん原性試験結果の概要

【ラット】
 アクリル酸メチルのがん原性を検索する目的でF344/DuCrlCrljラットを用いた吸入による2年間(104週間)の試験を実施した。
 本試験は、被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、各群雌雄とも50匹とし、合計400匹を用いた。被験物質の投与は、アクリル酸メチルを1日6時間、1週5日間で104週間、動物に全身暴露することにより行った。投与濃度は、雌雄とも0(対照群)、10、40、及び160ppmとした。観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、解剖時の肉眼的観察、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。
 アクリル酸メチルの暴露の結果、動物の生存率に投与の影響はみられなかった。一般状態では、雌雄ともアクリル酸メチルの影響と思われる所見はみられなかった。体重は、雌雄の160ppm群で増加の抑制がみられ投与期間を通じて対照群より低値で推移した。摂餌量は、雄では160ppm群で投与期間を通じて、雌は160ppm群で投与14週まで、それぞれ対照群より低値であった。
 病理組織学的検査では、雌雄とも、鼻腔に腫瘍の発生が認められた。雄では、鼻腔に扁平上皮癌の発生が40ppm群に1匹、160ppm群に6匹にみられ、Peto検定(死亡率法、死亡率法+有病率法)とCochran-Armitage検定で増加傾向を示し、Fisher検定で160ppm群に増加がみられた。雌でも鼻腔に扁平上皮癌の発生が160ppm群に2匹にみられ、統計学的な差は認められないものの、この腫瘍は当センターのヒストリカルコントロールデータにおいて発生のない極めて稀な腫瘍であった。非腫瘍性病変としては、雌雄の鼻腔、喉頭、気管、眼及び雄の鼻咽頭に影響がみられた。鼻腔の呼吸上皮では、扁平上皮化生、炎症及び杯細胞過形成、嗅上皮では、基底細胞過形成、呼吸上皮化生、萎縮、炎症、再生及び扁平上皮化生が認められ、その他、腺の変性と呼吸上皮化生、炎症性ポリープ、甲介の癒着及び鉱質沈着が認められた。鼻咽頭では、杯細胞過形成が雄にみられ、喉頭では、扁平上皮化生が雌雄に、扁平上皮過形成が雄にみられた。気管では、雌雄に萎縮がみられた。眼では、角膜炎が雌雄に、角膜の変性が雄にみられた。
 以上のように、F344/DuCrlCrljラットを用いて、アクリル酸メチルの2年間(104週間)にわたる吸入によるがん原性試験を行った結果、雄ラットに対するがん原性を示す証拠(clear evidence of carcinogenic activity)、及び、雌ラットに対するがん原性を示唆する証拠(some evidence of carcinogenic activity)が得られたと結論された。
アクリル酸メチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雄)
投 与 濃 度 (ppm)01040160Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 皮膚角化棘細胞腫2402
皮下組織線維腫6223
細気管支−肺胞上皮腺腫2615
膵臓島細胞腺腫2442
下垂体腺腫13985*
甲状腺C−細胞腺腫10598
副腎褐色細胞腫6631
精巣間細胞腫42474545
悪性腫瘍 鼻腔扁平上皮癌0016*↑↑↑↑
脾臓単核球性白血病5333
膵臓島細胞腺癌1300
甲状腺C−細胞癌5212
アクリル酸メチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雌)
投 与 濃 度 (ppm)01040160Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 下垂体腺腫16141016
甲状腺C−細胞腺腫4484
副腎褐色細胞腫1012
子宮子宮内膜間質性ポリープ6858
乳腺線維腺腫4565
悪性腫瘍 鼻腔扁平上皮癌0002
脾臓単核球性白血病5524
下垂体腺癌2310
副腎褐色細胞腫:悪性0102
副腎褐色細胞腫+褐色細胞腫:悪性1114
*: p≦0.05で有意**: p≦0.01で有意(Fisher検定)
↑: p≦0.05で有意増加↑↑: p≦0.01で有意増加(Peto, Cochran-Armitage検定)
↓: p≦0.05で有意減少↓↓: p≦0.01で有意減少(Cochran-Armitage検定)
【マウス】
 アクリル酸メチルのがん原性を検索する目的でB6D2F1/Crljマウスを用いた吸入による雄マウス94週間、雌マウス97週間の試験を実施した。なお、投与期間は雌雄とも104週間の予定であったが、対照群の生存率が25%を下回ったため、投与期間を短縮した。
 本試験は、被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、各群雌雄とも50匹とし、合計400匹を用いた。被験物質の投与は、アクリル酸メチルを1日6時間、1週5日間で雄マウス94週間、雌マウス97週間、動物に全身暴露することにより行った。投与濃度は、雌雄とも0(対照群)、2.5、10及び40ppmとした。観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、解剖時の肉眼的観察、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。
 アクリル酸メチルの暴露の結果、投与による動物の生存率に低下は認められず、動物の一般状態に雌雄ともアクリル酸メチルの影響はみられなかった。体重は、40ppm群で増加の抑制がみられ、雄は投与50週、雌は投与30週まで対照群より低値で推移した。摂餌量は、雌雄の40ppm群で、雄が投与78週まで、雌が74週まで低値であった。
 病理組織学的検査では、雌雄に腫瘍の発生増加はみられなかった。非腫瘍性病変としては、雌雄とも鼻腔と鼻咽頭に影響がみられた。鼻腔の嗅上皮の炎症、壊死、萎縮、再生、呼吸上皮化生、エオジン好性変化、呼吸上皮の炎症とエオジン好性変化(雄のみ)、固有層の腺の呼吸上皮化生、鼻咽頭のエオジン好性変化の発生匹数が増加または病変の程度が増強した。これらの影響がみられた濃度は雌雄とも10ppm以上の群であった。
 以上のように、B6D2F1/Crljマウスを用いて、アクリル酸メチルの雄94週間、雌97週間の吸入によるがん原性試験を行った結果、雌雄とも、腫瘍の発生増加は認められず、アクリル酸メチルの雌雄マウスに対するがん原性を示す証拠は得られなかった(no evidence of carcinogenic activity)と結論された。ただし、本試験ではすべての群でアミロイドーシスによる低体重と死亡例の増加が認められたことから、本試験の発がん性に対する検出力は低下していた可能性があり、条件がより適切であれば発がん性が示される可能性がある。
アクリル酸メチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雄)
投 与 濃 度 (ppm)02.51040Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫2213
肝臓肝細胞腺腫3412
悪性腫瘍 リンパ節悪性リンパ腫4336
肝臓肝細胞癌1240
肝臓組織球性肉腫2103
アクリル酸メチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雌)
投 与 濃 度 (ppm)02.51040Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 胃(前胃)扁平上皮乳頭腫1213
卵巣嚢胞腺腫2303
子宮子宮内膜間質性ポリープ1031
悪性腫瘍 リンパ節悪性リンパ腫8787
肝臓組織球性肉腫2352
子宮組織球性肉腫88212
*: p≦0.05で有意**: p≦0.01で有意(Fisher検定)
↑: p≦0.05で有意増加↑↑: p≦0.01で有意増加(Peto, Cochran-Armitage検定)
↓: p≦0.05で有意減少↓↓: p≦0.01で有意減少(Cochran-Armitage検定)