多層カーボンナノチューブ(MWNT-7別名NT-7K)のラットを用いた吸入投与によるがん原性試験結果の概要
多層カーボンナノチューブ(MWNT-7別名NT-7K。)の吸入によるがん原性を検索するために、MWNT-7を雌雄のF344/DuCrlCrljラットに全身暴露した。
本試験は、MWNT-7投与(暴露)群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹、合計400匹のラット(暴露開始時6週齢)を用いた。暴露濃度は、雌雄とも0(対照群)、0.02、0.2及び2mg/m3とし、MWNT-7を1日6時間、1週5日間で104週間全身暴露(経気道投与)した。暴露期間中は、吸入チャンバー内のMWNT-7の濃度測定、走査型電子顕微鏡(SEM)によるMWNT-7の形態観察、粒度分布測定及び空気動力学的質量中位径(MMAD)の算出、動物の生死及び一般状態の観察、体重測定、摂餌量測定、尿検査を行い、さらに、血液学的検査、血液生化学的検査、解剖時の肉眼的観察、臓器重量測定、病理組織学的検査及び透過型電子顕微鏡(TEM)による肺中のMWNT-7の観察を行った。
MWNT-7の実測濃度は、0.02mg/m3群で0.020±0.001mg/m3、0.2mg/m3群で0.204±0.014mg/m3、2mg/m3群で2.018±0.069mg/m3で、設定値に近似した濃度の暴露が確認された。形態観察からは、よく分散した繊維状のMWNT-7が多数認められ、暴露濃度及びサンプリング時期の違いによる差は認められなかった。また、粒度分布測定でも暴露濃度及びサンプリング時期の違いによる差は認められず、MMADは、1.2〜1.4μm、幾何標準偏差(σg)は2.6〜3.0であった。
動物の生死確認では、雌雄各群の生存動物は、対照群と暴露群との間に差は認められず、雄では36匹以上、雌では34匹以上生存した。一般状態の観察では特記すべき所見は認められなかった。
体重は、雄では対照群と暴露群との間に差は認められなかった。雌では、2mg/m3群で暴露1週、暴露最終段階の102週と104週で低値が認められたが、その変化は僅かなものであった。
血液学的検査では、雄の2mg/m3群で赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値及び白血球数の増加がみられた。雌では、白血球数が全暴露群で高値であった。尿検査及び血液生化学的検査では、雌雄に特記すべき変化はみられなかった。
解剖時の肉眼的観察では、雌雄の0.2mg/m3以上の群で肺の結節が観察され、さらに、雌雄とも2mg/m3群に肺の白色斑や黒色斑が全葉に散在性にみられた。臓器重量では、雄は0.2mg/m3以上の群、雌では0.02mg/m3以上の群から肺の重量増加が認められ、雌雄とも2mg/m3群の増加が顕著であった。
病理組織学的検査では、雌雄の肺に腫瘍の発生が認められた。雌雄とも細気管支−肺胞上皮癌の発生増加が認められ、雄では細気管支−肺胞上皮腺腫の発生増加も認められた。これらに加えて、雄で腺扁平上皮癌、雌で扁平上皮癌、腺扁平上皮癌及び低分化型腺癌が少数例認められた。これらの雄にみられた2種類の悪性腫瘍(細気管支−肺胞上皮癌と腺扁平上皮癌)を合わせた発生は0.2mg/m3以上の群で有意な増加を示し、雌にみられた4種類の悪性腫瘍(細気管支−肺胞上皮癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌及び低分化型腺癌)を合わせた発生は2mg/m3群で有意な増加を示した。
また、上記腫瘍に関連した病変である細気管支−肺胞上皮過形成及び肺胞上皮細胞過形成の発生増加が腫瘍の発生と同じく、雄は0.2mg/m3以上の群、雌は2mg/m3群でみられた。さらに、肺胞壁の限局性線維性肥厚と肉芽腫性変化の発生増加が雌雄の0.2mg/m3以上の群で、異型過形成、終末細気管支上皮過形成、肺胞マクロファージの浸潤及び肺胸膜(臓側胸膜)の線維性肥厚の発生増加が雌雄の2mg/m3群で認められた。壁側胸膜では、雄に中皮の単純過形成と限局性線維化の発生増加も観察された。上部気道では、雌雄とも鼻腔と鼻咽頭に杯細胞過形成、鼻腔に移行上皮の過形成とエオジン好性変化の発生増加が認められた。これらに加えてMWNT-7等の有無について検索を行った全臓器(鼻腔、喉頭、気管、肺、胸膜、リンパ節、脾臓、肝臓、腎臓、嗅球及び大脳)にMWNT-7が観察された。
以上、MWNT-7を0、0.02、0.2及び2mg/m3の濃度で2年間にわたり雌雄のF344/DuCrlCrjラットに全身暴露した結果、雄では0.2mg/m3以上の群、雌では2mg/m3群で肺の悪性腫瘍(癌)の発生増加が認められた。従って、MWNT-7はラット雌雄への全身暴露により明らかながん原性を示すと結論する。
MWNT-7のがん原性試験における肺の腫瘍発生(ラット 雄)
| 投 与 濃 度 (mg/m3) | 0 | 0.02 | 0.2 | 2 | Peto 検定 | Cochran- Armitage 検定 |
検査動物数 | 50 | 50 | 50 | 50 | | |
|
良性腫瘍 |
細気管支-肺胞上皮腺腫 | 1 | 1 | 7* | 5 | | |
悪性腫瘍 |
細気管支-肺胞上皮癌 | 1 | 1 | 8* | 10** | ↑↑ | ↑↑ |
腺扁平上皮癌 | 0 | 0 | 0 | 1 | | |
細気管支-肺胞上皮癌 + 腺扁平上皮癌 | 1 | 1 | 8* | 11** | ↑↑ | ↑↑ |
|
細気管支-肺胞上皮腺腫 + 細気管支-肺胞上皮癌 | 2 | 2 | 13** | 15** | ↑↑ | ↑↑ |
細気管支-肺胞上皮腺腫 + 細気管支-肺胞上皮癌 + 腺扁平上皮癌 | 2 | 2 | 13** | 16** | ↑↑ | ↑↑ |
MWNT-7のがん原性試験における肺の腫瘍発生(ラット 雌)
| 投 与 濃 度 (mg/m3) | 0 | 0.02 | 0.2 | 2 | Peto 検定 | Cochran- Armitage 検定 |
検査動物数 | 50 | 50 | 50 | 50 | | |
|
良性腫瘍 |
細気管支-肺胞上皮腺腫 | 3 | 1 | 4 | 3 | | |
悪性腫瘍 |
細気管支-肺胞上皮癌 | 0 | 1 | 0 | 5* | ↑↑ | ↑↑ |
扁平上皮癌 | 0 | 0 | 0 | 1 | | |
腺扁平上皮癌 | 0 | 0 | 0 | 1 | | |
低分化型腺癌 | 0 | 0 | 0 | 1 | | |
細気管支-肺胞上皮癌 + 扁平上皮癌 + 腺扁平上皮癌 + 低分化型腺癌 | 0 | 1 | 0 | 8** | ↑↑ | ↑↑ |
|
細気管支-肺胞上皮腺腫 + 細気管支-肺胞上皮癌 + 扁平上皮癌 + 腺扁平上皮癌 + 低分化型腺癌 | 3 | 2 | 4 | 11* | ↑↑ | ↑↑ |
*: p≦0.05で有意 | **: p≦0.01で有意 | (Fisher検定) |
↑: p≦0.05で有意増加 | ↑↑: p≦0.01で有意増加 | (Peto, Cochran-Armitage検定) |