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がん原性試験実施結果

4-クロロ-2-ニトロアニリンのラット及びマウスを用いた経口投与(混餌)によるがん原性試験結果の概要

【ラット】
 4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性を検索する目的でF344/DuCrlCrljラットを用いた混餌経口投与による2年間(104週間)の試験を実施した。
 本試験は、被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計400匹を用いた。被験物質の投与は、4-クロロ-2-ニトロアニリンを混合した飼料を動物に自由摂取させることにより行った。投与濃度は、雄では0(対照群)、280、1400及び7000ppm(重量比w/w)、雌では0、160、800及び4000ppmとした。観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。
 試験の結果、生存率の低下が雌の4000ppm群にみられ、これは慢性腎症による死亡の増加に起因するものであった。一般状態の観察では、被験物質の代謝物によると考えられる黄色尿と外陰部周囲の被毛の着色(黄色)が雌雄の全投与群で認められた。体重の低値が、雄の7000ppm群と雌の4000ppm群で投与期間を通して認められた。摂餌量は、雄の7000ppm群と雌の4000ppm群で投与期間を通して低値であった。
 被験物質による腫瘍の発生増加及び腫瘍関連病変の発生増加は、雌雄とも認められなかった。
 腫瘍以外の影響として、腎臓では、慢性腎症の発生増加あるいは程度の増強、腎盂における尿路上皮過形成と鉱質沈着の発生増加(雌雄)、乳頭での鉱質沈着の発生増加(雄)が認められた。また、血漿中尿素窒素とクレアチニンの高値(雌雄)及び尿潜血の陽性例の増加(雌)がみられた。血液/造血系では、メトヘモグロビン濃度の高値(雌雄)と貧血を示すパラメータの変化(雌雄とも赤血球数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値の低値等)がみられた。その他、雌のみに眼球の角膜炎と虹彩炎、肺における水腫、限局性線維化及び泡沫細胞の出現、心臓の心筋線維症、副腎での出血の発生増加が認められた。
 以上、F344/DuCrlCrljラットを用いて、4-クロロ-2-ニトロアニリンの2年間(104週間)にわたる混餌経口投与によるがん原性試験を行った結果、腫瘍の発生増加及び腫瘍関連病変の発生増加は雌雄とも認められなかった。
 なお、2年間の混餌経口投与における無毒性量(NOAEL)は、雌雄とも、腎臓及び血液/造血系への影響をエンドポイントとして、雄では280ppm(13mg/kg 体重/日)、雌では160ppm(9mg/kg 体重/日)であると考えられた。
4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雄)
投 与 濃 度 (ppm)028014007000Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 皮膚角化棘細胞腫7 271*
皮下組織線維腫4 772
細気管支‐肺胞上皮腺腫2 311
肝臓肝細胞腺腫3 002
膵臓島細胞腺腫4 250
下垂体腺腫15 17170**↓↓
甲状腺C-細胞腺腫14 5*126*
濾胞状腺腫0 103
副腎褐色細胞腫7 440**
精巣間細胞腫41 354347↑↑
包皮腺腺腫1 233
悪性腫瘍 脾臓単核球性白血病4 696
甲状腺C-細胞癌2 450
濾胞状腺癌0 010
甲状腺C-細胞腺腫+ C-細胞癌16 9176*
濾胞状腺腫+濾胞状腺癌0 113
4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雌)
投 与 濃 度 (ppm)01608004000Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 下垂体腺腫14 17110**↓↓
甲状腺C-細胞腺腫5 670*
子宮子宮内膜間質性ポリープ7 765
乳腺線維腺腫11 7147
陰核腺腺腫3 002
悪性腫瘍 脾臓単核球性白血病6 542
子宮子宮内膜間質性肉腫2 320
*: p≦0.05で有意**: p≦0.01で有意(Fisher検定)
↑: p≦0.05で有意増加↑↑: p≦0.01で有意増加(Peto, Cochran-Armitage検定)
↓: p≦0.05で有意減少↓↓: p≦0.01で有意減少(Cochran-Armitage検定)
【マウス】
 4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性を検索する目的でB6D2F1/Crljマウスを用いた混餌経口投与による2年間(104週間)の試験を実施した。
 本試験は、被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計400匹を用いた。被験物質の投与は、4-クロロ-2-ニトロアニリンを混合した飼料を動物に自由摂取させることにより行った。投与濃度は、雄では0(対照群)、200、1000及び5000ppm(重量比w/w)、雌では0、400、2000及び10000ppmとした。観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。
 試験の結果、生存率の低下が雄の5000ppm群にみられ、これは尿閉による死亡の増加に起因するものであった。一般状態の観察では、被験物質の代謝物によると考えられる黄色尿が雌雄の全投与群に、内部腫瘤、外陰部周囲の糜爛及び陰茎突出を伴う動物が雄の5000ppm群に多くみられた。体重の低値が、雄の5000ppm群と雌の10000ppm群で投与期間を通して認められた。摂餌量は、雄の5000ppm群で低値が散見され、雌の10000ppm群では投与期間を通して低値であった。
 被験物質による腫瘍の発生増加及び腫瘍関連病変の発生増加は、雌雄とも認められなかった。
 腫瘍以外の影響として、血液/造血系では、メトヘモグロビン濃度の高値(雌雄)、貧血を示すパラメータの変化(雌で赤血球数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値の低値等)がみられた。泌尿器系では、雄に尿閉に関連した病変(膀胱の拡張、外陰部周囲皮膚の潰瘍、尿道の炎症)、及びその二次的変化がみられた。また、雌では、腎硬化症、乳頭壊死、水腎症及び腎盂の乳頭状ポリープの発生が増加した。さらに、腎臓への影響として、血漿中尿素窒素の高値と腎臓重量(体重比)の高値が雌雄にみられた。胃では、前胃と腺胃で過形成の発生増加(雄)がみられた。肝臓では、小葉中心性の肝細胞肥大(雌)が増加し、肝臓への影響を示唆する変化(ALTの高値(雌))がみられた。また、アミロイド沈着の増加(雌雄の舌、雄の大腸、雌の胃と肺)が認められた。
 以上、B6D2F1/Crljマウスを用いて、4-クロロ-2-ニトロアニリンの2年間(104週間)にわたる混餌経口投与によるがん原性試験を行った結果、腫瘍の発生増加及び腫瘍関連病変の発生増加は雌雄とも認められなかった。
 なお、2年間の混餌経口投与における無毒性量(NOAEL)は、雄では、胃への影響とアミロイド沈着の発生増加をエンドポイントとして200ppm(22mg/kg 体重/日)、雌では、腎臓への影響とアミロイド沈着の発生増加をエンドポイントとして400ppm(56mg/kg 体重/日)であると考えられた。
4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雄)
投 与 濃 度 (ppm)020010005000Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数50505050
良性腫瘍 細気管支‐肺胞上皮腺腫3 821
肝臓血管腫7 350**
肝細胞腺腫10 9144
ハーダー腺腺腫2 521
悪性腫瘍 細気管支‐肺胞上皮癌5 470*
骨髄血管肉腫0 300
リンパ節悪性リンパ腫5 792
脾臓血管肉腫0 301
肝臓組織球性肉腫2 303
血管肉腫4 421
肝細胞癌9 761**
精巣上体組織球性肉腫3 100
4-クロロ-2-ニトロアニリンのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雌)
投 与 濃 度 (ppm)0400200010000Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数49505050
良性腫瘍 細気管支‐肺胞上皮腺腫2 213
肝臓血管腫1 320
肝細胞腺腫2 322
下垂体腺腫5 650*
卵巣嚢胞腺腫4 531
子宮子宮内膜間質性ポリープ2 310
ハーダー腺腺腫4 310
悪性腫瘍 細気管支‐肺胞上皮癌3 203
リンパ節悪性リンパ腫17 22186**↓↓
肝臓組織球性肉腫3 341
子宮組織球性肉腫9 7611
*: p≦0.05で有意**: p≦0.01で有意(Fisher検定)
↑: p≦0.05で有意増加↑↑: p≦0.01で有意増加(Peto, Cochran-Armitage検定)
↓: p≦0.05で有意減少↓↓: p≦0.01で有意減少(Cochran-Armitage検定)