安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
荷主
1 荷主等とは
荷主(にぬし)とは、荷物の持ち主、若しくは荷物の送り主(発送人)のことです。船舶により荷物の輸送を行い、その船荷の上げ下ろしをすることを荷役(にやく)といいますが、陸上貨物輸送の割合が増えるとともに、陸上での荷物の扱いも「荷役」若しくは「荷役作業」と呼称されています。
陸上貨物運送事業(以下、「陸運業」という)の労働災害では、直接の雇用者である使用者が災害防止のための措置を講じますが、荷役作業に伴う労働災害の約7割は「荷主、配送先、元請事業者等(以下、「荷主等」という)」の構内で発生し、約8割は貨物自動車の運転者が被災しています。そのため、荷役作業の労働災害を防止するためには、陸運業の事業者(以下、「陸運事業者」という)と荷主との間の連携、協力が必須となります。
2 安全対策ガイドライン
厚生労働省により、陸運業における荷役作業の労働災害を減少させるため、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン(平成25 年3 月25 日 基発0325 第1号)」が定められています。
このガイドラインを指針として、陸運事業者が労働災害防止対策の積極的な推進に努めることが求められるだけでなく、荷主等においても、陸運業の労働者の労働災害防止に必要な事項の実施に協力する必要があります。
3 荷主により取り組むべき事項
2の安全対策ガイドラインには、荷主等が取り組むべき事項として以下の項目が定められています。
- 荷役作業の担当者の指名
- 荷主等の事業場の安全管理者等の中から、荷役作業の担当者を指名し、担当者に対して荷役災害防止のために必要な教育を実施することが必要です。また、担当者は、陸運事業者と荷役作業についての連絡・調整や、陸運事業者と連携し、荷役作業の労働災害防止対策を行う必要があります。
- 安全衛生方針の表明、目標設定や計画について
- 荷主等が安全衛生方針の表明や目標の設定、安全衛生計画の策定を行う際には、陸運事業者の労働者が荷主等の事業場で行う荷役作業における労働災害の防止についても、盛り込む必要があります。
- 陸運事業者と荷主等による安全衛生協議組織の設置
- 反復・定期的に荷物の運搬を発注する陸運事業者と、合同で安全衛生協議組織を設置し、荷台等からの墜落・転落災害の防止対策等についての協議や、合同で荷役作業場所の巡視等を行う必要があります。
- 荷役作業を陸運事業者に行わせる場合の事前通知
- 陸運事業者の労働者に荷主等の事業場において荷役作業を行う必要がある場合、陸運事業者に事前に荷役作業について通知する必要があります。また、事前に通知していない荷役作業は陸運業の労働者に行わせないよう配慮してください。
- 荷の到着時間の弾力的な設定
- 荷役時間、荷待ち時間、貨物自動車運転者の休憩時間、道路状況等を考慮しない荷の到着時刻指定は、安全な作業手順の省略につながるおそれがあります。到着時刻の指定については、余裕をもち、弾力的な設定とする必要があります。
- 荷役場所の安全性の管理
- 荷役作業を行う場所について、荷の積卸しや荷役運搬機械・荷役用具等を使用するために必要な広さの確保、床の凹凸や照度の改善、混雑の緩和、荷や資機材等の整理・整頓、できるだけ風雨が当たらない荷役作業場所の確保、安全な通路の確保等に努めるとともに、安全に荷役作業を行うことのできる状況を保持する必要があります。
- 墜落・転落防止のための施設等の整備
- 荷主等が管理する施設について、プラットホーム、荷台への昇降設備等の墜落・転落防止のための施設、設備を整備することが求められます。また、タンクローリー上部に登って行う作業や荷台に積み上げた荷の上での作業による墜落・転落災害を防止するため、できるだけ施設に安全帯取付設備(親綱、フック等)を設置する必要があります。
- フォークリフトの適正な使用
- 陸運事業者の労働者にフォークリフトを貸与する場合、労働者が最大荷重に合った資格を有していることを確認した上、所有しているフォークリフトの定期自主検査を実施してください。
- フォークリフト使用のルール等
- 荷主等の管理する施設において、構内における制限速度、フォークリフトの走行場所と安全通路等のフォークリフト使用に関するルールを定め、労働者が見やすい場所に掲示してください。また、通路の死角部分へミラー等を設置し、フォークリフトの運転者に周知する必要があります。
- クレーン等の適正な使用
- 陸運事業者の労働者にクレーン等を貸与する場合は、労働者がつり上げ荷重に合った資格を有していることを確認した上、所有しているフォークリフト等の定期自主検査を実施してください。
- 移動式クレーンの設置場所の整備
- 荷主等が管理する施設において、陸運事業者の労働者が移動式のクレーンを運搬する場合は、設置場所の地耐力、暗渠や埋設物を周知する必要があります。また、移動式クレーンを設置する場所に傾斜がある場合には、できるだけ補正しておくほか、転倒防止のための敷鉄板を準備する必要があります。
- コンベヤーをまたぐ必要がある場所への踏切橋等の設置
- 荷主等が管理する施設において、通行のためコンベヤーをまたぐ必要がある場所には、踏切橋等を設置する必要があります。また、荷主等が管理するコンベヤーについて、駆動ローラ等に巻き込まれないような覆い、逸走等防止装置、非常停止装置を設ける必要があります。
- 移動経路の整理・整頓
- 荷主等が管理する施設において、ロールボックスパレット等の進行方向の視界を確保するとともに、ロールボックスパレット等と他の物の間に手足等をはさまれることのないように、移動経路を整理・整頓する必要があります。
- 床や地面の凹凸や傾斜の除去
- 荷主等が管理する施設において、ロールボックスパレット等のキャスターが引っかかることにより転倒することを防止するため、床や地面の凹凸や傾斜をできるだけ除去する必要があります。
- 荷役作業場所の整理・整頓等
- 荷主等が管理する施設において、荷役作業場所の整理・整頓によりつまずきの原因をできるだけなくすとともに、荷役作業場所の段差の解消や手すりの設置、床面の防滑対策等の設備改善を行う必要があります。
- 台車等の準備、利用
- 荷物で手が塞がっていることにより転倒や、腰痛を発生させないため、台車等を準備し、適宜利用する必要があります。
- 運搬機械、道具の利用や作業者の負担軽減配慮
- 荷主等が管理する施設において人力荷役をする場合、できるだけ機械・道具を使った荷役作業をするよう施設、設備を改善するとともに、職場における腰痛予防対策指針を踏まえ、荷姿、荷の重量等について、作業者の負担が軽減されるように配慮すること。
- パレットの破損状況の確認
- パレットの破損に伴う崩壊、倒壊、踏み抜き等を防止するため、適宜パレットの破損の有無を確認することが必要です。
- 改善基準告示の概要等の周知と遵守
- 貨物自動車の運転者については、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号。以下、「改善基準告示」という。)により、拘束時間、運転時間の上限等が定められています。運送業務の発注を担当する労働者等に対し、改善基準告示の概要を周知し、貨物自動車の運転者が改善基準告示を遵守できるよう、着時刻や荷待ち時間等を設定してください。
- 荷役運搬機械に関する安全衛生教育の実施
- 荷主等の労働者が運転する荷役運搬機械により、陸運事業者の労働者が労働災害に被災することがないよう、荷役運搬機械の安全衛生教育を行う必要があります。
- 荷役作業における役割分担の明確化
- 荷役作業による労働災害が減少しない要因には、荷役作業における陸運事業者と荷主等の役割分担が明確になっておらず、その結果として荷役作業における安全対策の責任分担もあいまいになっている場合があることがあげられます。
このため、運送契約時に、荷役作業における陸運事業者と荷主等との役割分担を明確にすることが重要です。また、陸運事業者と荷主等が、荷役作業の付帯業務について書面による契約を行う必要があります。
- 荷役作業実施における荷主等と陸運事業者との連絡調整
- 陸運事業者の労働者が荷役作業を行う場合、陸運事業者の荷役災害防止の担当者に対し、安全作業連絡書の内容を通知してください。
- 荷役場所の安全性の管理
- 荷役作業を行う場所について、荷の積卸しや荷役運搬機械・荷役用具等を使用するために必要な広さの確保、床の凹凸や照度の改善、混雑の緩和、荷や資機材等の整理・整頓、できるだけ風雨が当たらない荷役作業場所の確保、安全な通路の確保等に努めるとともに、安全に荷役作業を行うことのできる状況を保持する必要があります。
4 関連資料(法令、通達、ガイドラインなど)