安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
2015年12月1日より労働安全衛生法改正による「心理的な負担の程度を把握するための検査(以下、ストレスチェック)」制度がスタートしました。
これまでは2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が公表され、事業場におけるメンタルヘルス対策の措置が進められてきましたが、厚生労働省の労働者健康情報調査結果(2012年)において、仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスがある労働者は約6割という結果が出ており、更に2014年の精神障害による労災請求件数(1456件)及び認定件数(497件)は過去最多となっております。
このような背景を踏まえ、新たにストレスチェック制度が創設され、職場において定期的にストレスチェックを行い、その結果により労働者が自らのストレスに気づきストレスに対処すること、ストレスチェックを通じて職場環境を見直し、ストレスの要因そのものを低減させ、メンタルヘルス不調のリスクが高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目指しています。
労働安全衛生法の改正に伴い、50名以上の従業員がいる事業所(従業員50人未満の事業場は、当面の間努力義務)では、ストレスチェックを実施することが義務づけられています。
ストレスチェック制度の実施責任主体は事業者であり、先ず事業者が制度に関する導入方針を決定、表明します。実施方法等については衛生委員会で調査審議を行い、実施方法等を定めた規定を策定します。
ストレスチェックの実施者(以下、実施者という)は、医師、保健師又は厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師若しくは精神保健福祉士です(労働者の健康管理業務に3年以上の従事者は受講免除)。また、ストレスチェックの調査票には、「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」、及び「周囲のサポート」の3領域を全て含めることとなっており、どのような調査票を用いるかは事業者による選択が可能ですが、国では標準的な調査票として「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」(簡略版23項目)を推奨しています。
実施者は、ストレスチェックを受けた労働者に対して結果を直接本人に通知し、事業者に対しては本人の同意がない限り提供してはいけないこととされています。
ストレスチェックの結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者から申し出があったときは、医師による面接指導を行うことが事業者の義務となります。また、事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の所見を勘案し、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じる必要があります。更に、実施者は職場の一定規模の集団(部、課など)ごとにストレスチェック結果を集計・分析し、これを事業者に通知して、事業者は分析の結果を踏まえ、職場環境を改善することが、努力義務として期待されています。ただし、集計・分析の単位が10人以下の場合は個人が特定されるおそれがあり、労働者全員の同意がなければ事業者に提供することはできません。
また、行政への報告として、事業者は、ストレスチェックや面接指導の実施人数を労働基準監督官署に報告(様式第6号の二)する必要があります。
一方、労働者に対する不利益な取り扱い防止のため、面接指導の申し出を理由として、労働者に不利益な取り扱いを行うことは法律上禁止されています。加えて、ストレスチェックを受けないこと、事業者へのストレスチェックの結果の提供に同意しないこと、高ストレス者として面接指導が必要と評価されたにも関わらず面接指導を申し出ないこと等を理由とした不利益な取り扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配転、不当な職変更等も行ってはいけないとされています。
今後、メンタルヘルス不調者を増加させないために、労働者自身によるセルフケアを始め、管理監督者や産業保健スタッフによるケアなどを通じ、メンタルヘルス不調者の早期発見、早期治療を進めると共に、メンタルヘルス不調に陥りにくい職場環境を整備していくことが必要です。