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転倒災害
1 概要
労働災害分類では、「転倒」とは人がほぼ同一平面上で転ぶこと、つまずき、または滑りによって倒れることを言い、車両系機械などとともに転倒した場合も含み、交通事故は除かれます。また、感電して倒れた場合には「感電」として分類されます。
「転倒」は、通路、床面等の上で滑ったり、段差、突起物、床上を踏み外したりする等の原因で起こりますが、樹木、建築物、足場、機械、乗り物、梯子、階段、斜面等から落ちることは「転落・墜落」と言い、「転倒」と区別されます。
2 労働者死傷病報告に基づく転倒災害の発生状況
「転倒災害」は、「墜落・転落災害」、「はさまれ・巻き込まれ災害」とともに、発生件数の多い労働災害の一つで、労働者死傷病報告(休業4日以上)によれば、平成27年における転倒災害の被災者は25,949人で、労働災害全体の22%を占め、平成20年における転倒災害の被災者(24,792人:労働災害全体の19%)と比較して、人数、割合ともに増加しています。
また、第三次産業においては転倒災害の占める割合が最も高く、特に、小売業、社会福祉施設、飲食業では各々約30%前後となっています。一方、製造業、建設業、陸運業における転倒災害の占める割合は10%以下ですが、これらの業種でも転倒災害は年々増加傾向にあります。
3 転倒災害の種類と主な原因
職場における転倒災害は、大きく3つに分けられ、各々主な原因は以下の通りです。
| 主な原因 |
滑り |
床が滑りやすい素材であったこと、床に水や油が飛散していたこと、ビニールや紙等滑りやすい異物が床に落ちていたこと |
つまずき |
床の凹凸や段差があったこと、床に荷物や商品が放置されていたこと |
踏み外し |
大きな荷物を抱えるなど、足元が見えない状態で作業を行っていたこと |
4 「STOP!転倒災害プロジェクト」の主な取り組み
転倒災害は、どのような職場でも発生する可能性があり、職場での転倒の危険性は、全ての労働者が問題意識を持って原因を見つけ、対策を講じることで減らすことができます。
また、平成25年にスタートした第12次労働災害防止計画の中間年である平成27年1月20日より、「労働力人口の高齢化が一層進行すると見込まれるなか、高年齢労働者が転倒災害を発生させた場合は、その災害の程度が重くなる傾向にあり、事業場における転倒災害防止対策の徹底を図ることは極めて重要」との観点から、休業4日以上の死傷災害で最も件数が多い「転倒災害」を減少させるため、「STOP!転倒災害プロジェクト」が展開されています。
「STOP!転倒災害プロジェクト」は以下を主な内容として、プロジェクト効果を上げるため、積雪や凍結による転倒災害の多い2月と、全国安全週間の準備月間である6月が重点取り組み期間としております。
- (1) 業界団体などに対する職場の総点検の要請
- 関係業界団体など(約260団体)に対して、厚生労働省労働基準局安全衛生部長名にて、転倒災害の防止に向けた職場の総点検を要請。
- (2) 都道府県労働局、労働基準監督署による指導
- 2月、6月を重点取組期間に設定し、事業場に対して安全委員会などにおける転倒災害防止対策の検討やチェックリストを活用した職場巡視、点検の実施等の指導。
- (3) STOP!転倒災害特設サイトの開設
- 厚生労働省のホームページ(職場のあんぜんサイト)内に、「STOP!転倒災害プロジェクト」の特設サイトが開設され、事業場の転倒災害防止対策の推進が図っております。
5 転倒災害防止対策
職場の転倒災害防止対策には、設備面の対策、転倒対策に役立つ安全活動、作業管理面の対策(保護具等の準備)が必要です。
- (1) 設備面の対策
- 職場の床の滑りをできるだけ抑えるために、出入り口周辺にゴムマットを敷くことは、有効な転倒防止対策となります。また冬季に屋外作業を行う場所などでは、凍結しにくい材料で作られているマットを設置するなどして、凍結防止対策を行うことが有効です。
また、駐車場内や職場までの通路に凍結防止用の砂の散布を行うことも、冬季における転倒対策として有効です。「踏み外し」による転倒災害を防ぐには、踏み台の幅を広げることや、通路や階段の視認性を高めることなども有効です。
- (2) 転倒対策に役立つ安全活動
- 油汚れ、水濡れなどによる「滑り」や、通路上の荷物への「つまずき」による転倒災害を防ぐには、職場内の4S活動(整理、整頓、清掃、清潔)が、基本的な対策となります。4S活動を通じ転倒の原因を除去することにより、安全性及び生産性の向上が期待されます。
また、職場に潜んでいる危険を見つけるKY活動も重要です。KY活動は、業務を始める前に「どんな危険が潜んでいるか」を職場で話し合い、危ない点について合意をした上で対策を決め、設定された行動目標や指差し呼称項目を一人一人が着実に実践することで、安全衛生を先取りしながら業務を進める方法です。
同様に、危険情報の共有を行う危険の「見える化」も転倒対策に役立ちます。危険の「見える化」とは、職場の危険を可視化(=見える化)し、従業員全員で共有することです。事前に転倒のおそれのある箇所がわかっていれば、慎重に行動することができます。職場の中で転倒災害が多発している箇所は、危険マップやステッカーの貼り付けなどにより作業員全員で情報を共有し、安全意識を高める必要があります。
さらに加齢による平衡機能、筋力などの身体の機能低下も転倒災害の原因の一つであるため、身体機能の向上を図る体操を実施することも転倒予防対策として有効です。
- (3) 作業管理面の対策
- 転倒しにくい作業方法として、時間に余裕を持って行動する、滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行する、足元が見えにくい状態で作業しないなどの意識化を徹底することが大切です。
また、転倒防止のために滑りにくい靴も有効です。但し、過度に滑りにくい靴はつまずきの原因になるため、使用する場合は濡れた場所に限定するなど、床の滑りやすさと靴の耐滑性のバランスを考慮する必要があります。
更に、歩き方も転倒予防には大事な要素であり、つま先を持ち上げて歩く習慣をつけると、つまずきを少なくすることができます。
6 関連資料(法令、通達、ガイドラインなど)