安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
電動ファン付き呼吸用保護具(Powered Air Purifying Respirators、以下「PAPR:ピーエーピーアール」という。)は、着用する労働者の周辺の作業環境中の空気をろ過して清浄にした空気を供給する「ろ過式呼吸用保護具」の一種で、空気中の粒子(粉じん)をフィルタによって除去し、電動ファンとバッテリーを使用して着用者に送風するため、自分の肺で空気を吸引する防じんマスクや防毒マスクより楽に呼吸ができ、着用者の呼吸用インタフェースの内部が外気圧より高く保たれる(陽圧)ため外気の漏れが少ない、防護率性能の高い呼吸用保護具のことです。(吸気補助具付き防じんマスク(型式検定合格標章に「補」のマーク)もバッテリーとそれによって駆動するファンを使用して着用者に送風する機能を有しておりますが、常に陽圧が保たれるものではないことからPAPRには含まれません。) 電動ファン付き呼吸用保護具には、@防じん機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具(P-PAPR)とA防毒機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具(G-PAPR)があります。粉じんが存在する環境ではP-PAPRを選択し、有毒ガスが存在する環境ではG-PAPRを選択し、有毒ガスと粉じんが混在する環境ではG-PAPRで防じん機能を有するものを選択します。
PAPRは、防じんマスクや防毒マスクと比べ一般的に防護性能が高く、労働者の健康障害防止の観点からより有用であるため、着用が義務付けられている特定の作業以外の作業においてもPAPRを着用することが望まれます。
PAPRには酸素を供給する能力はありませんので、酸素欠乏環境(酸素濃度18%未満)では指定防護係数が1000以上の全面形面体を有する給気式の呼吸用保護具(着用者が、周辺の作業環境中の空気とは別の空気、酸素又は呼吸可能なガスを呼吸する方式の呼吸用保護具)を使用してください。
PAPRについては、労働安全衛生法第42条に基づく関係法令の改正のほか、「電動ファン付き呼吸用保護具の規格」(平成26年11月28日 厚生労働省告示第455号)が改正され(令和5年厚生労働省告示第88号)、P-PAPRに加え、令和5年10月1日からG−PAPRも譲渡等制限の対象となり、型式検定が義務付けられました。国家検定(型式検定)に合格したPAPRを使用してください。
事業者は、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるため、次の措置を講じる必要があります。
安全衛生キーワード「保護具着用管理責任者」を参照のこと。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)による改正後の労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第577条の2第1項において、事業者に対し、リスクアセスメントの結果等に基づき、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にすることが義務付けられた。さらに、同条第2項において、厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務を行う屋内作業場においては、労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃度基準値」という。)以下とすることが事業者に義務付けられました。
これらを踏まえ、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号。以下「技術上の指針」という。)が定められ、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成 27 年9月 18 日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号。以下「化学物質リスクアセスメント指針」という。)と相まって、リスクアセスメント及びその結果に基づくリスク低減措置として呼吸用保護具を使用する場合に、その適切な選択、使用、保守管理等に当たって留意すべき事項として、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」(令和5年5月25日付け基発0525第3号)が示されました。この通達に詳細が記載されていますので、ここでは基本的な考え方を示します。
(1)事業者は、化学物質リスクアセスメント指針に規定されているように、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という優先順位に従い、対策を検討し、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることを含めたリスク低減措置を実施すること。その際、保護具については、適切に選択され、使用されなければ効果を発揮しないことを踏まえ、本質安全化、工学的対策等の信頼性と比較し、最も低い優先順位が設定されていることに留意すること。
(2)事業者は、労働者の呼吸域における物質の濃度が、保護具の使用を除くリスク低減措置を講じてもなお、当該物質の濃度基準値を超えること等、リスクが高い場合、有効な呼吸用保護具を選択し、労働者に適切に使用させること。その際、事業者は、呼吸用保護具の選択及び使用が適切に実施されなければ、所期の性能が発揮されないことに留意し、呼吸用保護具が適切に選択及び使用されているかの確認を行うこと。