安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
不安全行動とは、労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為をいいます。
手間や労力、時間やコストを省くことを優先し、つい「これくらいは大丈夫だろう」、「面倒くさい」、「皆がやっているから」、「(作業を早く進めるためには)仕方がない」などと考えたり、「長年経験しているから大丈夫」、「自分が事故を起こすはずはない」など慣れや過信から、「あるべき姿」を逸脱する安易な行動がとられた結果、労働災害に発展するケースが少なくありません。
なお、自らとった行動が、意図しない結果をもたらすことは「ヒューマンエラー」といいます。
労働災害が発生する原因は、労働者の不安全行動の他、機械や物の不安全状態(事故が発生しうる状態、また、事故の発生原因を作り出されている状態)があると考えられています。厚生労働省では、不安全行動の類型として以下の12項目を、不安全状態として以下の8項目を挙げています。
厚生労働省による「労働災害原因要素の分析(平成22年)」によれば、労働災害発生の原因は、① 不安全な行動及び不安全な状態に起因する労働災害:94.7%、② 不安全な行動のみに起因する労働災害:1.7%、③ 不安全な状態のみに起因する労働災害:2.9%、④ 不安全な行動もなく、不安全な状態でもなかった労働災害:0.6%、となっています。①と②を加えると、実に労働災害発生原因全体のうち96.4%が、労働者の不安全な行動に起因する労働災害なのです。
不安全行動を誘発する要因としては、①労働者の要因、②作業の要因、③作業環境の要因、④安全管理の要因、⑤組織の要因等があり、不安全行動は、これらのうち一つの要因に起因するばかりでなく、複数の要因が絡み合って発生すると考えられています。
また、不安全行動によって発生する労働災害を、労働者の心構え、意識だけで防止することはできません。その不安全行動が管理・監督の不徹底や、設備・環境面の欠陥によってもたらされることも少なくないからです。
不安全行動は、作業行動の「あるべき姿」からの逸脱ですが、この「あるべき姿」たる作業標準(作業手順)が明確に定められていなかったり、定められていても、十分な安全教育が行われていなかったりしたため、労働者が不安全行動をしてしまい、労働災害が発生した事例もあります。
安全教育は、教えたつもりでいても、教えた内容が労働者に十分伝わっていなければ意味がありません。教えた内容を日常の作業過程において実践させ、不安全行動をとったらすぐに是正させながら、「あるべき姿」を身に付けることが必要です。
不安全行動を防止するには、上述12の項目のそれぞれについて、個別にその対策を考える必要があります。例えば、上述1)や2)は、教育、指導や監督の徹底によって防止することが可能である一方、3)や4)は、設備や作業環境の改善、さらには人間工学的な観点からの配慮が必要です。また、職場におけるよき人間関係の醸成、労働時間、休日、休憩といった労働条件の適正化など、労務管理の観点からも考えなければなりません。