安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
昨今、我が国の労働現場では、終身雇用制度の崩壊、就業形態の多様化、IT化、成果主義、男女の役割分担の変化などが起こり、結果として多くの人がストレス過多となり、令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」(厚生労働省)においては、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」が82.2%に達しています。また、自殺を含む精神障害等に係る労災補償は請求件数、認定件数共に年々増加しています。
こうしたなか、労働者の安全を守り、健康障害の発生を防ぐことを目的として制定された労働安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づく指針として、2006年3月に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が示され(旧指針2000年公布)、職場におけるメンタルヘルス対策が、法令の面からも求められるようになりました。
指針では'4つのケア'の中の「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」に関し、事業者が講じる措置として5項目を挙げていますが、その1つが「事業場内メンタルヘルス推進担当者」の選任です。指針は、事業場内メンタルヘルス推進担当者を「産業医等の助言、指導等を得ながら事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する」者として位置づけ、衛生管理者や常勤の保健師等から選任することを勧めています。ただし、すべての事業場で選任されることが望ましいため、50人未満の規模や、保健師・看護師等不在の事業場では人事労務管理スタッフを充てることも想定されています。
心の健康度は、他の疾患と異なり数値で計ることはできず、本人のいつもと違う様子に周りが気づくことがきっかけのひとつと言われています。このような難しさゆえ、職場でのメンタル不調は休み始めてから問題が表面化するなど、重症化に伴い長期休職となってしまうケースが多く認められています。また、周囲の理解不足もあり、病気ではなく、性格やなまけの問題などと判断されてしまい、解決をより難しくしてしまうという事態も多々見受けられます。
労働者の心の健康の保持増進のための指針により、組織的な取組は強化され令和4年労働安全衛生調査(実態調査)によると63.4%の事業所が取り組んでいるとのことですが、規模別にみると小規模事業場での取り組み率が低いことが調査結果からも伺えます(表1参照)。
メンタル不調者の増加に伴って精神疾患も多様な病態が出現し、健康管理担当者のみならず、管理監督者や経営トップまで、的確な対処が出来ず職場全体が混乱してしまう事業場も見うけられます。こうした状況下ですべての職場においてメンタルヘルスの取組みが円滑に進められるよう、メンタルヘルス推進担当者の配置が望まれています。
全体 | 1,000人 以上 |
500〜999人 | 300〜499人 | 100〜299人 | 50〜99人 | 30〜49人 | 10〜29人 |
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63.4% | 99.7% | 99.3% | 98.2% | 96.8% | 87.2% | 73.1% | 55.7% |
事業場内メンタルヘルス推進担当者の主な役割は、次の4点です。
尚、事業場内メンタルヘルス推進担当者には、教育や相談そのものを直接担当することまでは求められておらず、事業場内で行われるメンタルヘルス対策がスムーズに推進されるよう調整する機能を果たすことが求められています。