安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいいます(健康増進法第25条、労働安全衛生法第68条の2)。
厚生労働省研究班の報告によると受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患の死亡数は年間約6,800人、そのうち職場での受動喫煙が原因とみられるのは約3,600人と言われており、受動喫煙による非喫煙者の健康への影響について社会的関心が高まっています(独立行政法人国立がんセンター:平成22年度厚生労働省科学研究費補助金「今後のたばこ対策の推進に関する研究」望月友美子)。
喫煙者のたばこから排出される煙は、以下の2種類があります。
室内において喫煙者の吐き出す呼出煙とたばこの点火部から立ち昇る副流煙が混じり合ったものを環境中たばこ煙と言い、室内空気汚染物質の主たるものの一つです。
受動喫煙で人体に吸い込まれる副流煙には、喫煙者が吸い込む主流煙と比較して、より有害性の高い物質が多く含まれています。中でもニッケルは30倍、ニコチンは2.8倍、タールは3.4倍、一酸化炭素は4.7倍、カドミウムは7倍、アンモニアに至っては46倍含まれています。
受動喫煙が死亡、疾病及び障害を引き起こすことは科学的に明らかであり、国際機関WHOや米英をはじめとする諸外国における公的な総括報告において、以下が報告されている。
また、受動喫煙を防止するため公共的な空間での喫煙を規制した国や地域から、規制後、急性心筋梗塞等の重篤な心疾患の発生が減少したとの報告が相次いでなされている。
厚生労働省は"健康日本21"(21世紀における国民健康づくり運動)で「公共の場や職場での分煙の徹底、及び効果の高い分煙についての知識の普及」を目標として掲げ、受動喫煙の防止について施設管理者の努力義務が明記された「健康増進法」が2003年(平成15年)5月1日に施行されました。健康増進法第25条において「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めらければならない」としています。
2003年(平成15年)5月に厚生労働省は、平成8年に策定した'職場における喫煙対策のためのガイドライン'を改正しました。基本的考え方は、労働衛生管理の一環として組織的に全員参加で行い、更に事業者が実態に即して積極的に取り組むこととされています。
適切な対策の方法としては全面禁煙(建物全体をすべて禁煙)と空間分煙(建物内に独立した喫煙室を設ける)が例示されています。
また、職場の空気環境の把握のために、浮遊粉じん・一酸化炭素・喫煙室等に向かう気流の風速の測定も行うように規定されています。
一方、第12次労働災害防止計画においては、平成29年までに職場で受動喫煙を受けている労働者の割合を15%以下にする、という目標を掲げています。
2014年(平成26年)6月25日に「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布され、この中に受動喫煙防止(第68条の2)及び受動喫煙防止のための設備の設置の促進(第71条第1項)も盛り込まれています。改正の主旨は、受動喫煙防止対策をこれまでの快適職場環境形成の観点だけでなく、労働者の健康の保持増進の観点からも適切かつ効果的な対策の実施を図っていくことにあります。今後事業者においては、各々の職場の実情を踏まえて、実行可能な受動喫煙防止策を講ずるよう努めることが求められています。