安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
感電とは、電気製品や電気設備の不適切な使用、電気工事において何かの原因で人体又は作業機械が送電線に引っ掛かったこと、漏電の発生、及び自然災害である落雷等の要因によって人体に電流が流れ、障害を受けることをいいます。
人体は電気抵抗が低い(電気が流れ易い)のですが、皮膚が水や汗で濡れていると電気抵抗が更に小さくなり(電気が更に流れ易くなり)、危険性が高まります。また、感電元に触れ体内に電気が侵入した部位(入電部位)と、接地等により地絡が成立し侵入した電気が体外に出た部位(出電部位)の間に心臓がある場合、心室細動、心停止に至る可能性があります。
感電に起因する死亡災害は、1970年代には毎年100数十件から200件以上発生していましたが、1972年に労働安全衛生法が施行され、労働安全衛生規則による漏電遮断器設置の一部義務化や、電気関連作業の安全化策が推進された結果、年々減少し、現在では概ね10〜20件となっています(感電災害により死亡する作業者数は、全労働災害の死亡者数の1〜2%)。
とはいえ、感電災害では、休業4日以上の死傷者数に占める死亡者の割合が10%強に上り、労働災害の中でも「致死率が高い」災害ということができ、しっかりとした防災対策を講じる必要があります。
人体に電流が流れたとき、電流の大きさ(大きいほど危険です)、人体を通過する時間(長いほど危険です)、通電経路(電流の経路に心臓があると危険です)によって、人体への影響は「ピリッと」感じる程度から、火傷、死亡といった重大な結果にまで及びます。
人体を通過する電流の危険性の判定には、ドイツの「ケッペンの実験」が知られています。ケッペンは、「大きな電流であれば短時間の人体通過でも危険であり、小さな電流であれば長時間の人体通過も危険でない」との考えに基づき、「人体通過電流[mA]×通過時間[s]=一定」であることを見出しました。そして、様々な検証を経て、人体通過電流の安全限界として、電流時間積を50[mA・s]とすることを提唱しました(一例ですが、「100mAの電流が人体に1秒間流れると危険であるが、電流が、0.1秒で遮断されれば安全」というわけです)。
ヨーロッパでは、ケッペンが提唱した50[mA・s]を更に厳しくとらえ、安全限界を30[mA・s]と定め効果を上げました。そのため、わが国で30[mA・s]を基本とし、漏電による感電を防止するための漏電遮断器は、高感度、高速形である30[mA]、0.1[s]の器種が一般的に採用されています。
人体への通過電流値と影響は、以下のように考えられています。
電流値 | 人体への影響 |
---|---|
0.5mA〜1mA | ・最小感知電流、「ピリッと」感じる、人体に危険性はない |
5mA | ・人体に悪影響を及ぼさない最大の許容電流値 ・相応の痛みを感じる |
10〜20mA | ・離脱の限界(不随意電流)、筋肉の随意運動が不能に ・持続して筋肉の収縮が起こり、握った電線を離すことができなくなる |
50mA | ・疲労、痛み、気絶、人体構造損傷の可能性 ・心臓の律動異常の発生、呼吸器系等への影響 ・心室細動電流の発生ともいわれ、心肺停止の可能性も |
100mA | ・心室細動の発生、心肺停止、極めて危険な状態に |
感電防止の基本は、大きく「充電部を露出させないこと」、「むやみに露出した充電部に近づかないこと」の2点です。
また、感電防止策の前提として、定期的に電気安全教育を実施することにより、「目で見えない」電気の危険性について意識を高め、電気機器や配線に対する日常の点検・保守管理を励行することが重要です。