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労働安全衛生マネジメントシステム
1 「労働安全衛生マネジメントシステム」(OSHMS)とは
OSHMSは、事業者が労働者の協力の下に「計画(Plan)−実施(Do)−評価(Check)−改善(Act)」(「PDCAサイクル」といわれます)という一連の過程を定めて、継続的な安全衛生管理を自主的に進めることにより、労働災害の防止と労働者の健康増進、さらに進んで快適な職場環境を形成し、事業場の安全衛生水準の向上を図ることを目的とした安全衛生管理の仕組みです。
「OSHMS」は、Occupational Safety
and Health Management Systemの頭文字です。
ILO(国際労働機関)においてOSHMSに関する指針等が策定されていますが、日本でも厚生労働省から「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」(平成11年労働省告示第53号)(OSHMS指針)が示されています。
2 労働安全衛生マネジメントシステムの特徴
OSHMS指針の特徴として、次のことがあげられます。
- (1)PDCAサイクル構造の自立的システム
- OSHMSは、「PDCAサイクル」を通じて安全衛生管理を自主的・継続的に実施する仕組みです。基本的には安全衛生計画が適切に実施・運用されるためのシステムですが、これに加えて従来のわが国の安全衛生管理ではなじみの薄かったシステム監査の実施によりチェック機能が働くことになります。したがって、OSHMSが効果的に運用されれば、安全衛生目標の達成を通じて事業場全体の安全衛生水準がスパイラル状に向上することが期待できる自立的システムです。
- (2)手順化、明文化及び記録化
- OSHMSでは、システムを適正に運用するために関係者の役割、責任及び権限を明確にし、文書にして記録することとされています。この記録は、安全衛生管理のノウハウが適切に継承されることに役立つものです。手順を重視し、文書により明文化し、その記録を保存することを重視するのはOSHMSの特徴の一つです。
- (3)危険性又は有害性の調査及びその結果に基づく措置
- OSHMSでは、労働安全衛生法第28条の2に基づく指針に従って危険性又は有害性等の調査を行い、その結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止するために必要な措置を採るための手順を定めることとしています。いわゆるリスクアセスメントの実施とその結果に基づく必要な措置の実施を定めているものでOSHMSの中心的な内容です。
- (4)全社的な推進体制
- OSHMSでは、経営トップによる安全衛生方針の表明、次いでシステム管理を担当する各級管理者の指名とそれらの者の役割、責任及び権限を定めてシステムを適正に実施、運用する体制を整備することとされています。また、事業者による定期的なシステムの見直しがなされることとなっており、安全衛生を経営と一体化する仕組みが組み込まれて経営トップの指揮のもとに全社的な安全衛生が推進されるものとなっています。
3 労働安全衛生マネジメントシステムの実施方法
事業場でOSHMSを実施する場合には、前述の厚生労働省から示されているOSHMS指針に従って仕組みを整備し、運用することが必要です。
同指針に示された具体的な手順は次のとおりです(図1参照)。
- [1] 事業者が安全衛生方針を表明する(第5条)
- [2] 建設物、設備、原材料、作業方法等の危険性又は有害性などを調査し、その結果を踏まえ、労働者の危険又は健康障害を防止するために必要な措置を決定する(第10条)
- [3] 安全衛生方針に基づき、安全衛生目標を設定する(第11条)
- [4] [2]の実施事項と[3]の安全衛生目標等に基づき、安全衛生計画を作成する(第12条)
- [5] 安全衛生計画を適切、かつ、継続的に実施する(第13条)
- [6] 安全衛生計画の実施状況等の日常的な点検及び改善を行う(第15条)
- [7] 定期的に労働安全衛生マネジメントシステムについて監査や見直しを行い、点検及び改善を行う
(第17条)
- [8] [1]−[7]を繰り返して、継続的(PDCAサイクル)に実施する(第18条)
図1 労働安全衛生マネジメントシステムの概要
また、労働安全衛生マネジメントシステムが連続的、かつ、継続的に実施されるように次の事項も併せて行うこととされています。
- [1]労働安全衛生マネジメントシステムに必要な要件を手順化し、明文化し、記録する(第8・9条)
- [2]システム各級管理者の指名等体制の整備を行う(第7条)
- [3]労働者の意見を反映させる(第6条)
4 OSHMS実施の効果
厚生労働省が平成16年2月に発表した「大規模事業場における安全管理体制等に係る自主点検結果」(都道府県労働局を通じての労働者数300人以上の約2,000の事業場が対象)によると、総括安全衛生管理者の見解(自由記入欄)において、労働安全衛生マネジメントシステムを運用、構築中、あるいは、設備・作業の危険有害要因のリスク評価を実施している事業場は、これらの取り組みを実施していない事業場に比べて、災害発生率(年千人率)が3割以上低いという結果が出ています(図2参照)。
図2 労働安全衛生マネジメントシステムに関連する活動の有無による災害発生率の比較
このほかにも、厚生労働省が平成17年10月に実施した「平成17年労働安全衛生基本調査」の結果でも、OSHMSを導入した事業場の多くで労働災害が減少したことが報告されています。
5 労働安全衛生マネジメントシステムの実施例
中央労働災害防止協会では、事業場においてOSHMSが厚生労働省の指針に沿って適切に導入され、労働安全衛生水準の段階的向上のために適切に運用されているかどうかを判断するためJISHA方式適格OSHMS基準を定め、この基準に適合している事業場を認定してホームページで公表しています。
また、建設業労働災害防止協会でも、建設業労働安全衛生マネジメントシステムガイドラインを定め、これを普及しています。
6 関連資料(法令、指針、リーフレット、等)