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建設業におけるリスクアセスメントのすすめ方

1.建設業における労働災害防止対策

建設業では、わが国の国内総生産(GDP)の6.1%(平成20年、内閣府調べ)、就業者数の8.2%(平成21年、総務省調べ)を占めています。

労働災害については、減少傾向を維持し、特に死亡災害については、平成5年の時点で953人であったものが、平成21年においては371人になるなど、その減少傾向が顕著ですが、依然として建設業では、全産業の死亡災害のうち3分の1以上を占め、死傷災害では5分の1以上を占めています。

また、災害の直接原因をみると、開口部に手すりがない等労働災害を防止するための基本的な措置が講じられていなかった事例が散見される等の問題点が認められています。さらに、近年の建設業を取り巻く厳しい経営環境の下、公共工事の減少に伴う競争の激化を背景としたいわゆるダンピング受注は、労働災害防止対策の不徹底等をもたらすことが懸念されています。

一方、建設業では、重層請負構造の下、次のような事業の特性を有しており、このような性質を踏まえた労働災害防止対策を講じていく必要があります。

  1. [1] 一定期間内に成果物を引渡し、次ぎの工事に移動するため、建設現場が短期間で変化し、また、著しく広い場所、狭隘な場所、日中作業が制限される場所等の慣れない現場環境で作業することがあること。
  2. [2] 個別の受注生産であり、同じ種類の建設現場物であっても構造や規模等の生産条件が異なることから、物件ごとに作業に習熟していかなければならないこと。
  3. [3] 異なる事業者の作業者と同一の場所で作業することから、自社の作業者の安全対策を十分に行っていても、もらい事故を防ぐことは困難なこと。
  4. [4] 元方事業者(元請)が現場ごとに管理・監督者が変わることから、コミュニケーションが不足しがちであり、また、元請によって、生産体制や施工法等に特徴があり、短期間で理解することが困難あること。
  5. [5] 建設現場は、他の事業者の設置した設備・機械等を使用するため、災害防止対策上の手直しが困難であるとともに、設置される設備・機械等は、事業者により保守・整備及び管理に差があること。

このようなことから、労働安全衛生法では、重層請負構造がみられる建設業においては、元方事業者による統括安全衛生管理について規定しており、具体的には、現場における元方事業者による統括管理の実施、関係請負人を含めた安全衛生責任体制の確立を基本に、現場を管理する本店、支店、営業所等がそれぞれ現場への安全衛生指導・援助を的確に行うとともに、関係の事業者が必要な安全衛生対策を講じていくことを求めています。

さらに、労働安全衛生法では、事業者が講ずべき具体的な措置のほか、事業者に職場における危険性又は有害性等の調査及びその結果の基づく対策の実施(以下「リスクアセスメント」という。)を求めており、具体的な進め方についても厚生労働省から指針が示されています。

この事業者とは、労働者を使用するものとされており、個人企業の場合にはその事業主個人、会社その他の法人の場合には法人そのものをさすことになります。事業者は、労働者に対し成果の報酬を支払うのみならず、労働者一人一人の安全と健康を確保し、安心して働ける職場を提供しなければなりません。安心して働ける職場づくりには、作業にかかる前に災害原因となる危険性又は有害性を取除く先取りの安全が不可欠であり、その基本的な枠組みを定める方法がリスクアセスメントにほかなりません。

現在、建設現場では、危険予知ミーティングが定着し、これをさらに発展させ、リスクアセスメントの手法を取り入れたリスク危険予知(KY)活動も進められていますが、これらの多くは、作業に掛かる直前に行われており、主として個々の作業者を対象とした作業行動面の対策です。

これに対し、リスクアセスメントは、作業計画時等に十分に時間をかけて実施し、作業の段取りや手配に支障がないよう、主として設備面や適正配置等の問題を解決しておくなど労働災害防止対策の根幹をなすものであり、また、その経費は、原価に反映されることから、経営者が責任を持って実施していくことが不可欠です。

2  リスクアセスメント実施支援システムの目的

建設業の休業4日以上の死傷災害について事故の型別にみると、「墜落・転落」によるものが圧倒的に多く1/3を占め、「はさまれ・巻き込まれ」、「飛来・落下」及び「切れ・こすれ」が合わせて1/3を占めています。

建設業では、このように仮設物・建設物や設備からの「墜落・転落」、機械、設備による「挟まれ、巻き込まれ」のほか、種々の原因による災害が発生しています。

また、建設現場では、多種多様な作業が行われ、新たな作業方法の採用、変更及び作業の機械化などが進んでおり、それらの実態や特性にあった安全衛生対策を行っていく必要があります。

職場の様々な危険の芽(リスク)を見つけ出し、災害に至る前に、先手を打って対策を施し、リスクの除去・低減措置を行い、更なる労働災害の減少を図るための手法の一つが前述の「リスクアセスメント」です。

このリスクアセスメントの一層の普及・定着を図る観点から、リスクアセスメント実施支援システム(以下「システム」という。 )は、インターネット上で事業者等が自社の作業名等を入力したり、選択したりすることにより、その作業についてのリスクの見積り等が容易に実施できることを目的として作成したものです。

このシステムに関しては、平成22年3月に製造業の製品組立作業、成形作業等11作業について公表ししていますが、今回対象とする業種・作業は、建設業の15種類の専門工事です。

建設現場では、28業種が50万の事業者の下で生産活動をしておりますが、実際の工事の担い手は、専門工事業者とその作業者です。

この専門工事業者とその作業者が安全な作業を進めていくためには、前述したような建設業の特性からくる安全衛生上の問題が存在します。このような問題点の解決には、現場で生産活動を請負った専門工事業者と作業者の対応だけでは不十分であり、発注者から請負った元方事業者、材料を支給し設置した設備等を使用させる注文者、仕事を請負現場で作業する専門工事業者の三者がそれぞれの安全衛生上の責任を果たす立場からリスクアセスメントを実施しなければなりません。特に、元請事業者については、現場において、専門工事業者に対しリスクアセスメントに関し必要な指導・援助を行うことが労働災害の防止において必要不可欠です。

しかしながら、一方で、直接現場の作業に携わるのは専門工事業者であり、現場の状況を熟知した専門工事業者がまず安全衛生対策を講ずることが必要であり、その一環として、リスクアセスメントを実施することが重要です。また、専門工事の種類は、多岐にわたり、それぞれの工事の種類・内容に応じたリスクアセスメントを工夫する必要があります。

このような観点から、このシステムは、建設業の専門工事業を対象として、インターネット上で事業者等が自社の作業名等を入力したり、選択したりすることにより、リスクアセスメントにおけるリスクの見積り等が容易に実施できることを目的として作成したものです。 したがってこのシステムは、専門工事を行う事業者やその安全衛生担当者の立場からリスクアセスメント行う際に使用することを基本に考えています。

3 対象とする専門工事業

建設業について本システムを導入するに当たり、

  1. [1] 建設工事の主要工事を構成する代表的な専門工事業であること。
  2. [2] 労働災害の発生の可能性が高く、重篤な災害になりやすい作業であること。
  3. [3] 典型的な屋外作業であり、就労する者が多く、また、他の職種との混在作業及び合番作業が多い作業であること。
  4. [4] 法的資格を有する作業者を必要とする作業が多いこと。
  5. [5] 感電、挟まれ・巻き込まれ、墜落・転落、飛来・落下等の代表的な災害が発生している作業であること。

等を考慮して、次の15種類の専門工事業の作業を選定しました。

  1. [1] キュービクル設置作業
  2. [2] 屋外照明器具(ポール式)取付作業(高所作業に係る作業を含む)
  3. [3] 移動式クレーンによる玉掛け作業
  4. [4] 基礎工事(ケーシング建て込み・掘削作業)
  5. [5] 基礎工事(鉄筋カゴの建て込み・コンクリート打設作業)
  6. [6] 基礎工事(ケーシング引き抜き作業)
  7. [7] 基礎工事(補助クレーン作業)
  8. [8] アースドリル機の組立・解体作業
  9. [9] ドラグ・ショベルによる地山の掘削及びダンプトラックによる積込み搬出作業
  10. [10] 基礎梁・耐圧盤配筋作業
  11. [11] 上部階の壁・柱配筋作業
  12. [12] 柱・内壁型枠組立作業
  13. [13] フラットデッキ作業
  14. [14] 軽量支保梁組立作業
  15. [15] 枠組み足場の組立解体作業

このようなことから、労働安全衛生法では、重層請負構造がみられる建設業においては、元方事業者による統括安全衛生管理について規定しており、具体的には、現場における元方事業者による統括管理の実施、関係請負人を含めた安全衛生責任体制の確立を基本に、現場を管理する本店、支店、営業所等がそれぞれ現場への安全衛生指導・援助を的確に行うとともに、関係の事業者が必要な安全衛生対策を講じていくことを求めています。

さらに、労働安全衛生法では、事業者が講ずべき具体的な措置のほか、事業者に職場における危険性又は有害性等の調査及びその結果の基づく対策の実施(以下「リスクアセスメント」という。)を求めており、具体的な進め方についても厚生労働省から指針が示されています。

この事業者とは、労働者を使用するものとされており、個人企業の場合にはその事業主個人、会社その他の法人の場合には法人そのものをさすことになります。事業者は、労働者に対し成果の報酬を支払うのみならず、労働者一人一人の安全と健康を確保し、安心して働ける職場を提供しなければなりません。安心して働ける職場づくりには、作業にかかる前に災害原因となる危険性又は有害性を取除く先取りの安全が不可欠であり、その基本的な枠組みを定める方法がリスクアセスメントにほかなりません。

現在、建設現場では、危険予知ミーティングが定着し、これをさらに発展させ、リスクアセスメントの手法を取り入れたリスク危険予知(KY)活動も進められていますが、これらの多くは、作業に掛かる直前に行われており、主として個々の作業者を対象とした作業行動面の対策です。

これに対し、リスクアセスメントは、作業計画時等に十分に時間をかけて実施し、作業の段取りや手配に支障がないよう、主として設備面や適正配置等の問題を解決しておくなど労働災害防止対策の根幹をなすものであり、また、その経費は、原価に反映されることから、経営者が責任を持って実施していくことが不可欠です。

これらの個々の作業について、特徴やそれを踏まえた選定の主な理由は、次のとおりです。

(1)キュービクル設置作業及び屋外照明器具(ポール式)取付け作業(高所作業車に係る作業を含む)

  1.  設備工事の代表的な専門工事業であること。
  2.  重量物又は長尺材を取扱うことから重篤な災害になりやすい作業であること。
  3.  法的資格を有する作業者を必要とする作業が多いこと。
  4.  玉掛け者のみならず、周辺の他の作業者に及ぼす災害の発生のおそれが少なくないこと。

(2)小型移動式クレーンの玉掛け作業

  1.  建設工事で使用される重機として移動式クレーンが圧倒的に多いこと。
  2.  移動式クレーンのほとんどが運転士付きのリースであり、使用する玉掛け者の側から見れば運転合図の意思統一が十分であるとはいえないこと。
  3.  クレーン規則等の法令で規制されている作業であり、労働災害が多く発生するとともに、重篤な災害になりやすい作業であること。
  4.  基礎工事(ケーシング建て込み・掘削作業)

(3)基礎工事(鉄筋カゴの建て込み・コンクリート打設作業)、基礎工事(ケーシング引き抜き作業)、基礎工事(補助クレーン作業)及びアースドリル機の組立・解体作業

  1.  アースドリル杭打ち作業は、建築,土木、港湾工事等の基礎工事で極めて多く選定されている工法であること。
  2.  既成杭と異なり、全ての杭の生産工程が現場にあり、屋外作業であること。
  3.  複数の車両系建設機械、ダンプトラック、コンクリートミキサー車等の運搬車両等が使用されるとともに、ゼネレーター等が設置され、作業が輻輳すること。
  4.  車両系建設機械との相番作業が多く、作業者が常に大型建設機械に接していること。
  5.  作業場所の地盤の形状や地質が作業ごとに異なることから、作業に高い習熟度が求められること。
  6.  重量物又は長尺材を取扱うことから重篤な災害になりやすい作業であること。

(4)ドラグ・ショベルによる地山の掘削及びダンプトラックによる積込み搬出作業

  1.  掘削作業は、建築,土木工事等の基礎工事で必ず発生する作業であること。
  2.  作業場所の地盤の形状、地質、湧水等により様々な施工法があること。
  3.  複数の車両系建設機械、ダンプトラック等の運搬車両が使用され、また、短期間で大量な土石の搬出を伴う作業であることから通路の安全確保が難しいこと。
  4.  車両系建設機械との相番作業が極めて多く、常に大型建設機械や車両に接していること。
  5.  運転士付きリースの機械が少なくなく、相番する作業者との間で作業の意思統一がなされにくいこと。

(5)基礎梁・耐圧盤配筋作業及び上部階の壁・柱配筋作業

  1.  建築,土木工事等の躯体工事の基本となる鉄筋工事に係るものであること。
  2.  大工、鉄筋工、鳶工、土工等として就労する作業者が多く、他の職種との混在作業及び合番作業が多い作業であること。
  3.  鉄筋組立作業で取扱う鉄筋は、単位重量が重く、長尺であるとともに、取扱い時にはしなり、切断面が鋭利であること。
  4.  鉄筋を組立てることから足場や可搬式作業台を使用する作業が多く、タラップや架設通路が頻繁に使用されること。
  5.  ユニット化工法、メッシュ筋工法、機械式継ぎ手工法等が選択されているが、これらの工法に伴う新たな災害も発生していること。

(6)柱・内壁型枠組立作業、フラットデッキ作業及び軽量支保梁型枠組立作業

  1.  建築,土木工事等の躯体工事の基本となる型枠・コンクリート工事に係るものであること。
  2.  大工、鉄筋工、鳶工、土工等として就労する作業者が多く、他の職種との混在作業及び合番作業が多い作業であること。
  3.  型枠組立作業で使用される材料は、コンクリート接する木材、これを支える支保工、締付け単管等は鋼製材料で構成され、規格化された大量のものを取扱うが、全て仮設材料であり転用されるものであること。
  4.  仮設材料の転用から消費材への変換を図るために合板に換りコンクリートに打込むフラットデッキ等の採用や、取扱い鋼製材料を少量化するための軽量支保梁等の採用が進んでいること。
  5.  型枠組立作業は、材料の揚重の作業とともに、足場や可搬式作業台での身を乗出して行う作業が多いこと。
  6.  合板等の木材を現場で切断するための可搬式丸鋸、加工材を接合するための高圧釘打ち機等の工具が多く使用され、これらによる災害が多く発生していること。

(7)枠組み足場の組立解体作業

  1.  足場は、建設現場で働く作業者の作業床を構築する仮設物であり、作業効率と安全を支えるものであること。
  2.  足場工事では、規格化された大量の仮設材料としての鋼製材料が取扱われ、現場で組立・解体されること。
  3.  足場の組立てのため大量の材料の揚重作業や作業床を使いながらの部材の運搬・組立て作業があること。
  4.  作業床は部材をピンやつかみ金具等で接合されているので揺れやすく、水が付着すると滑りやすくなること。

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