家庭用漂白用洗剤の原液を撒いたところ、先に撒かれていた酸性洗剤と混合し、発生した塩素ガスにより、急性呼吸不全を発症した
業種 | 小売業(スーパーマーケット) | |||||
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事業場規模 | 30〜99人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 危険物、有害物等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 作業方法の欠陥 | |||||
発生要因(人) | 分類不能 | |||||
発生要因(管理) | 危険な状態を作る |
No.101359
発生状況
被災者は、漂白剤を使用し、精肉作業室の床の端の壁際の黒ずみの除去を始めた。この時、別の労働者が清掃のため、業務用弱酸性洗剤を数倍程度に希釈した洗浄液を精肉作業室の床に撒いていたが、被災者はそのことを知らなかった。また、当該労働者はその場におらず、そのことを被災者に伝えていなかった。 被災者は、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤、アルカリ剤を成分とする家庭用除菌・漂白・除臭剤を、原液のまま全量を精肉作業室の壁際の床の端全周に撒き、20分ほど放置した後、デッキブラシで床をこすり始めた。 こすり始めてほどなく、被災者は、目にピリピリという痛みを感じるようになった。次いで喘息の発作のように呼吸が荒くなり、息苦しい症状が出てきたため、病院を受診したところ「塩素ガス中毒、急性呼吸不全」と診断された。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 別の労働者が弱酸性洗剤を撒いた作業室の床に、被災者が次亜塩素酸ナトリウムを成分とする漂白用洗剤を撒き、その上からデッキブラシで、酸性洗剤と次亜塩素酸ナトリウムを混合してしまったことにより、次亜塩素酸ナトリウムが分解して塩素ガスが発生したこと。 |
2 | 災害発生場所の精肉作業室には、換気設備が設けられておらず、発生した塩素ガスが室内に滞留して気中濃度が上昇し、中毒症状を発症する濃度に達したこと。 |
3 | 床清掃作業において、作業の打ち合わせ、及び使用する洗剤の管理が行われておらず、各労働者がそれぞれの判断により代用洗剤を使用し、併用が禁じられている弱酸性洗剤と、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする漂白用洗剤を併用してしまう結果を招いたこと。 |
4 | 労働者に、清掃に使用する洗剤等の危険有害性、応急手当等の教育が行われていなかったため、被災者が塩素ガス中毒になっていることが認識できず、初期の治療を適切に行うことができなかったこと。 |
5 | 洗剤等の購入、管理を行っている本社では、各店舗に対して使用手順のみを記したマニュアルを送付したに留まり、SDS等有害性、取扱注意事項、応急措置等の情報が提供されていなかったこと。 |
6 | 衛生委員会において、業務に使用している洗剤等の有害性、取扱注意事項、応急措置等に関する啓発、周知が行われていなかったこと。 |
対策
類似災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 次亜塩素酸ナトリウムを成分とする洗剤については、酸性洗剤、その他混合すると塩素ガスを発生する恐れのあるものと併用されないよう、分けて保管、管理を行い、使用方法を関係労働者に周知徹底すること。 |
2 | 次亜塩素酸ナトリウムを成分とする洗剤を使用する部屋については、換気設備を設け、清掃作業時には換気設備を作動させること。 |
3 | 洗剤等のリスクアセスメントを実施し、清掃作業責任者を定め、洗剤等の適切な管理を行い、清掃作業開始前の打ち合わせを行う等により、清掃の工程を明確にし、適正な洗剤の使用と保護具の使用、及び次亜塩素酸ナトリウムを成分とする洗剤と酸性洗剤、その他混合すると塩素ガスを発生する恐れのあるものとの併用防止を図ること。 |
4 | 関係労働者へ、次亜塩素酸塩溶液及び酸性溶液のそれぞれの危険・有害性として、これらが混触した場合に塩素ガスが発生すること、塩素ガスが発生した場合の対応、塩素ガスの有毒性及び災害事例について安全衛生教育を行うこと。 |
5 | 店舗の管理者等に対し、作業マニュアルを策定した理由、使用する洗剤等のSDS等で有害性、取扱注意事項、応急措置等についての情報を確実に提供し、会議等の機会を通じ十分な説明を行うこと。 |
6 | 衛生委員会において、使用する洗剤等のSDS等で有害性、取扱注意事項、応急措置等についての情報を確認し、安全な使用方法、マニュアル内容等に関するリスクアセスメントの実施について、啓発、周知を行うこと。 |