メッキ工場でクレーンのつり荷に激突され、高温の処理槽に転落し死亡
業種 | めっき業 | |||||
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事業場規模 | 30〜99人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | クレーン | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 作業箇所の間隔空間の不足 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.101163
発生状況
この災害は、排水溝の蓋、道路のガードレール等の鉄製品に亜鉛メッキを行っている工場で発生したものである。 災害発生当日、作業者A〜Dの4人は、メッキを行う製品の前処理を行っていた。前処理は、[1]脱脂処理、[2]酸洗処理および[3]フラックス処理の3工程で、2台のホイストクレーン(いずれもつり上げ荷重2t)を使用して製品をつり上げ、工程に従って処理槽から処理槽へ順番に移動を行っていた。 午後3時頃、朝から脱脂処理を始めた製品すべての前処理が終わったが、次のメッキ槽が空かないので、一時仮置きすることになった。そこで、フラックス槽での処理が終わった製品をクレーンでつり上げて、所定の場所へ移動させる作業を、2人ずつの組になって始めた。AはBと組になり、主にBが1号クレーンの運転を、Aが玉掛け作業を行っていた。また、2号クレーンを使用した作業は、CとDの組が行っていた。 Aが最初の移動を終えて戻ろうとしたとき、Cが運転する2号クレーンのつり荷がAの背後から激突し、Aは90℃の薬液が入ったフラックス槽(長さ6m、幅2m、深さ1.5m)へ転落し、火傷を負った。その後、Aは救助され病院に移送されたが、翌日死亡した。 フラックス槽の周囲には高さ50cmの柵が設置されていたが、作業者の転落防止措置としては不十分であった。また、4人の作業者はいずれもクレーンの運転や玉掛け作業の資格を持っていなかった。 工場では、クレーンを使用した処理槽から処理槽への製品の移動作業の作業手順書は作成していたが、今回のように2台のクレーンを同時に使用する場合の安全確保に関する事項は作業手順書に盛り込まれていなかった。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | フラックス槽への転落防止措置が不十分だったこと Aが転落して火傷を負ったフラックス槽には90℃の薬液が入っており、その周囲には高さ50cmの柵が設置されていたが、作業者の転落を防止するには十分な高さでなかった。 |
2 | 資格がない作業者に作業させたこと A〜Dの4人は、いずれもクレーンの運転や玉掛け作業に必要な資格がなかった。そのため、クレーン運転時等の安全確保に関する知識が乏しかった。 |
3 | 作業手順書の内容が不十分だったこと クレーンを使用した製品の移動作業の作業手順書は作成されていたが、狭い場所で2台のクレーンを使用して同時に別の作業を行う際の安全上の留意事項については、作業手順書に盛り込まれていなかった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 処理槽の周囲に効果的な転落防止措置を講じること 作業者が、作業中または通行時に薬液の入った処理槽等があるときは、周囲に高さが75cm以上の丈夫な柵等を設置する必要がある。 |
2 | クレーンの運転や玉掛け作業には有資格者を従事させること つり上げ荷重が0.5t以上5t未満のクレーンの運転を行う作業者に対して、事業者はあらかじ特別教育を実施するか、または教習機関等が実施する特別教育を受講させる必要がある。 また、つり上げ荷重が1t以上のクレーンによる玉掛け作業を行うには、玉掛け技能講習を修了した者をつかせる必要がある。 |
3 | 作業手順書を整備すること 高温の薬液が入った処理槽の周囲の狭い場所で2台のクレーンを使用して行う作業がある場合には、関係作業者相互の位置確認、合図者の配置、転落防止措置の実施等を盛り込んだ作業手順書を作成する。また、その内容を関係作業者に周知徹底することも重要である。 なお、毎日の作業開始前には、作業手順と安全のポイントの確認を行うようにすることも有効である。 |