磁性合金粉製造工場の加熱処理炉で高温ばく露により死亡
業種 | 無機・有機化学工業製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 炉、窯 | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 防護・安全装置がない | |||||
発生要因(人) | 無意識行動 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.101096
発生状況
この災害は、ビデオテープなどの原料として使用される磁性合金粉の製造を行う工場で発生したものである。 災害発生当日、作業者Aは、前日の晩に自動運転のセットをした磁性合金粉の一次加工品を加熱処理する炉(直径143cm、高さ132cmの円柱形の釜で、500〜550℃で加熱処理するもの)が運転の途中で止まっていることに気づき、朝礼のときに報告したところ、A自身が一人で炉の点検および修理を行うことになった。 Aは、炉を点検し、異常箇所の修理を終えた後、炉の上面に鉄粉がこぼれているのを見つけ、清掃することにした。Aは脚立を炉の傍らに置いてこれに上り、炉の蓋を開けて上半身を乗り出して炉の上面の清掃をしていたところ、突然、蓋が閉まったため、Aは炉の中に転落し、閉じ込められた。約1時間後に発見されたが、Aは高温ばく露により、死亡していた。 炉は、点検整備等の作業の際、内部に作業者が入ることは想定していなかったため、蓋が閉まって内部に作業者が閉じ込められたときに、蓋を内部から開けられる構造にはなっていなかった。 工場では、作業者に対し安全衛生教育は実施していたが、当該炉の清掃、点検、修理等の非定常作業についての作業手順書は作成していなかった。また、Aが炉の点検に取り掛かる際、課長は安全上の留意事項についてAに指示していなかった。 |
原因
この災害の原因としては、次のことが考えられる。 | |
1 | 炉を運転しながら清掃を行ったこと 炉を運転し、内部が高温の状態にもかかわらず、蓋を開けた状態で炉の上部の清掃を行ったため、高温の炉内に転落した。 |
2 | 炉の蓋が内部から開けられる構造になっていなかったこと 加熱処理を行う炉は、通常の作業で炉の内部に作業者が入ることを想定していなかったため、蓋が内部から開けられる構造になっていなかった。そのため、誤って加熱処理炉の内部に転落したAは閉じ込められたまま、逃げ出すことができなかった。 |
3 | 非定常作業についての作業手順書を作成していなかったこと 工場では、炉の清掃、点検、修理等の非定常作業についての作業手順書を作成していなかった。このためAは安全上の留意事項について十分理解していなかった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 炉の点検、修理、清掃等の非定常作業を行う場合は、炉を停止し、安全な状態で行うこと 炉等の危険な設備について、非常時作業を行う場合は、その稼動を停止し、安全な状態で行うことが原則である。やむを得ず稼動状態で行う場合は、監視人を置く等の安全対策を講じた上で行う。 |
2 | 炉の蓋が内部から開けられる構造にすること 加熱処理を行う炉は、通常作業で作業者が内部に入ることは想定していないが、万が一、作業者が内部に閉じ込められることを想定し、蓋を内部から開けられる構造のものとする。 |
3 | 非定常作業についての作業手順書を作成し、作業者に教育すること 機械設備の清掃、点検、修理等の非定常作業について、電源を切ること、操作盤に「点検中」等の表示をすること等の安全のポイント盛り込んだ作業手順書を作成する。 その上で、作業者に対し、作業手順書の内容を教育する。 |