天井クレーンを用いてH鋼の端部をつり上げ中、下敷きになり死亡
業種 | その他の金属製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | クレーン | |||||
災害の種類(事故の型) | 飛来、落下 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 不適当な工具、用具の使用 | |||||
発生要因(人) | 場面行動 | |||||
発生要因(管理) | 保護具を使用していない |
No.101050
発生状況
この災害は、高速道路の防音壁の支柱を製造する作業中に発生したものである。 作業者Aは、単独で防音壁の支柱のアーク溶接作業に従事していた。作業は、長さ約8m、重量337.8kgのH鋼R(曲がり)材2本を溶接するものであった。 災害発生当日、Aは、まずH鋼2本を溶接するため、H鋼の向きを変えようとしてシャックル付きワイヤロープを取り付けたクランプをH鋼の先端に取り付けた後、当該ワイヤロープを床上操作式天井クレーン(定格荷重2.8t)のフックに玉掛けし、ペンダントスイッチを操作してH鋼の先端をゆっくりとつり上げた。 クレーンのフックに玉掛けしたシャックル付きワイヤロープがほぼ垂直に近い状態になったとき、クランプのカムからH鋼がはずれて落下し、H鋼のすぐ近くにいたAが、落下したH鋼の下敷きになった。 Aが使用していたクランプは横つり用のもので、クランプの開口部の方向と直角方向につり荷の荷重がかかると固定される構造になっているが、開口部の方向に荷重がかかった場合には、つり荷のグリップ力が弱くなるので、縦つりには向かないものである。Aは、クレーン運転および玉掛け作業の資格があったが、使用するクランプの使用方法等について事業場内で教育を受けたことはなかった。 なお、Aが所属する事業場では、この作業についての作業手順書はなく、作業方法はAが自ら工夫したものだった。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 横つり用クランプで縦つりしたこと H鋼がつり上げられるにつれて、H鋼の先端に取り付けた横つり用クランプの開口部が水平の位置から鉛直(縦向き)に変わり、クランプのグリップ力が低下したため、クランプのカムからH鋼が外れた。 |
2 | 作業手順書がなかったこと H鋼を溶解する作業について、事業場内で安全な作業方法を検討しておらず、作業標準書も作成されていなかったため、Aのみの判断で作業が行われていた。また、H鋼の向きを変えるため、つり上げたH鋼の重心を確保する必要があったが、Aはこれを人力により行うためにH鋼の近くの危険な位置で作業を行っていた。 |
3 | 危険な作業を単独で行わせたこと 床上操作式クレーンを使用してH鋼の向きを変えるという危険な作業を、補助者や監視人を置かず、Aに単独で行わせていた。 |
対策
このような災害を防止するためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 作業に適したクランプを用意し、使用させること H鋼の向きを変えるためにH鋼の先端に取り付けるクランプには、横つりの状態から縦つりの状態になるため、クランプのつかみ力の低下を補う外れ防止用の安全ロック装置を有するものを用意し、作業者に使用させる。さらに、使用するクランプ等の用具については、その正しい使用方法を作業者に教育することも重要である。 |
2 | 作業手順書を作成すること H鋼のような不安定な重量物をクレーンで移動させ溶接する作業については、安全な作業方法を事業場内で十分に検討し、作業手順書を作成する。また、重量物をつり下げる場合には、つり荷と十分な距離をおいて作業させるようにしなければならない。 |
3 | 単独作業を行わせないこと H鋼のような不安定な重量物を取り扱うに当たっては、単独作業を避け、2人以上で作業を行わせるか、安全に作業が行われているか監視する監視人を置くか等すること。 |