製鋼工場でクレーンを用いて電気炉のカバーを移動中、補巻き用ワイヤロープが切断し、被災
業種 | 製鉄・製鋼・圧延業 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 動力クレーン等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 飛来、落下 | |||||
被害者数 |
|
|||||
発生要因(物) | 防護・安全装置が不完全 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 機械、装置等を指定外の方法で使う |
No.101005
発生状況
この災害は、製鋼工場の鋼塊(インゴット)製造工程において作業者がクレーンによる製造装置の移動作業を行っていた際に発生したものである。 災害発生当日、作業者A、BおよびCの3人は屑鉄からインゴットを作る作業を行うことになっていた。作業は、まずAとBが電気炉内で屑鉄から発生するプラスチックやゴム等のくずを回収するための鉄製の容器を交換するために、電気炉の安全カバーを交換することから始められた。AとBは電気炉の安全カバーを別の場所に移動するために同カバーに玉掛作業を行い、Cの運転する天井クレーンによりつり上げた。その後、AとBは安全カバーの両側に付き添うような形で荷下ろし場所へと向かい、天井クレーン操作者であるCに荷を下ろす様に合図を出した。これを見たCは目標地点に安全カバーを下ろそうとした時、補巻きフックに掛けてあった空のワイヤロープが邪魔であったため補巻きフックをつり上げ始めた。その後、CはAの合図に合わせて安全カバーをゆっくりと下ろし始めた。このとき、先につり上げを開始した補巻きフックのブロックが過巻き状態となったが、過巻安全装置が作動しなかったためにブロックをつるしていたワイヤロープが切れ、ブロックが落下した。
その結果、ブロックはAを直撃し、ついで安全カバーに激突した。この衝撃でBも転倒・負傷した。両者はその後病院に運ばれたがAは翌日搬送先の病院で死亡、Bは打撲のため休業7日であった。
なお、落下したブロックは当該天井クレーン用のものではなかった。また、当日、クレーンの作業開始前の点検は行われていなかった。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | クレーンの作業開始前の点検を行わなかったこと 本災害は、クレーンの状態が不適切であったために発生した。これらが、作業開始前の点検によりチェックされていなかった。 |
2 | 補巻きの過巻防止装置が作動しなかったこと 過巻防止装置は補巻きが巻き上げすぎの状態で作動しなかった。このためワイヤロープが切れるまで巻き上げ装置が作動し続けたものである |
3 | クレーンの補巻きフックブロックが本来のものではなかったこと クレーンの過巻防止装置が作動しなかった原因のひとつとして補巻きのフックブロックが定格のものではなく、大きさ、形状が異なっていた。 |
4 | 作業開始前にあらかじめ作業の邪魔となる補巻きのフックをつり上げておかなかったこと 補巻きのフックを作業前につり上げてあれば過巻防止装置に達する前に適切な高さで止めておくことができた。本災害では2つの作業を同時に行ったことも原因のひとつである。 |
5 | 玉掛けを行った作業者がクレーンのつり荷やフックの下にいたこと 玉掛けを行った作業者がつり荷等の下にいたため、頭上にあった補巻きフックブロックが落下した際に直撃された。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 作業開始前の点検を確実に行うこと クレーン等を用いて作業を行う時には装置・設備の状態についての点検記録等をチェックする。特にワイヤロープ、フックブロック等各装置・設備の状態をチェックリストを用いて確実に点検し、その結果を記録すること。 |
2 | 過巻防止装置等安全装置は定期的に作動状況を確認すること 過巻防止装置等安全装置は安全な作業のためには特に重要であることから、定期的に作動状況を確認することが必要である。 |
3 | クレーンの補巻きフックブロックは規格にあったものとすること クレーンの補巻きフックブロック等関係装置及び部品は規格上定められたものを使用し、それ以外のものは使用しないこと。特に規格が異なる場合、どのような状況が発生するかはメーカーや関係者でも予測不可能であることを関係者が十分認識した上で作業に当たること。 |
4 | 作業開始前に作業準備を綿密に行うこと 本災害のように本作業に邪魔となる補巻きフックブロックはあらかじめ適正な高さにつり上げておくこと。 |
5 | 玉掛け作業者をはじめ関係者は、クレーンのつり荷等が落下するおそれのある場所に立ち入らないこと つり荷を支えて歩いていた作業者が事故に巻き込まれる事例が多いことから十分に注意して作業に当たること。 |