製紙工場内の連続蒸解設備の循環ポンプ修理作業において、黒液が噴出して3名が死亡
業種 | パルプ・紙製造業 | |||||
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事業場規模 | 30〜99人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 危険物、有害物等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 設計不良 | |||||
発生要因(人) | チームワーク | |||||
発生要因(管理) | 加圧されている容器の |
No.100845
発生状況
この災害は、製紙工場のパルプ製造工程における高温高圧の強アルカリ溶液循環ポンプの部品交換を行う際に、ポンプ周辺に残存していた高温高圧の強アルカリ溶液の噴出により発生したものである。
災害発生当日、パルプ製造ラインにおいて、パルプ原料を製造する連続蒸解釜(木材チップを高温高圧、強アルカリ溶解する連続化学反応設備)に附設された黒液(木材チップの溶解に用いる高温高圧力の強アルカリ溶液)を循環させるポンプの修理を被災者ら3名が行っていた。修理をはじめてまもなくポンプケーシング付近より高温・高圧の黒液が大量に噴出し、これを全身に浴びた作業者3名が被災したものである。 なお、作業前に関係者が黒液の排出完了の目安として確認を行ったドレン出口付近はその後の調査で材料片が詰まっており(チップ片によるブロッキング状態)、また、修理の対象となっていた循環ポンプは他のポンプと並列状態で連続蒸解釜に接続された状態であった。その後の調査で他のポンプの系統との連結バルブのシール状態が完全ではなく、他系統の黒液および蒸気が修理対象の循環ポンプ付近に流入していたことが判明した。なお、災害の発生した設備は高温・高圧で強アルカリ溶液により化学処理を行う化学設備であったが蒸気等の噴出を防ぐためのバルブによる二重閉鎖および閉止板の設置並びに定期自主検査等の措置は講じられていなかった。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 作業開始前に作業手順書が作成されていなかったこと。 |
2 | 作業関係者に対し作業手順、作業内容等が周知徹底されていなかったこと。また、教育等も行われていなかったこと。 |
3 | 一連の作業が夜間勤務時の深夜から開始され、その後常日勤者および他の下請け作業者に引き継がれたにもかかわらずその引継ぎ内容等が十分なものではなかったこと。 |
4 | 作業を統括して監視・監督できる監督者が発注者である事業場より選任されていなかったこと。 |
5 | 作業に先立ってポンプ周辺の黒液および蒸気の排出の確認が不十分であったこと。 |
6 | 高温、高圧で作業が行われる設備であるにもかかわらず圧力計、温度計等作業者が設備内部の状況を客観的に判断できる装置が設置されていなかったこと。 |
7 | 高温の強アルカリ溶液に触れる可能性がある作業にもかかわらず化学防護服、呼吸用保護具等の保護具を着用しないで作業を行ったこと。 |
8 | 災害の発生した設備が化学設備であるにもかかわらず、高温の水蒸気を二重に閉止するための措置および閉止板の設置並びに定期自主検査等の措置が講じられていなかったこと。
また、バルブ類を閉止する際にこれらを施錠していなかったこと。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 特別な環境下で行われる非定常作業の作業開始前には作業の安全性を考慮し、関係者が協議したうえで作業手順書を作成すること。 |
2 | 作業関係者に対し作業手順書、作業内容等を周知徹底すること。また、取り扱う物質の有害性、作業の安全対策等に関する教育等を行うこと。 |
3 | 非定常作業が複数の直勤務を通じて行われる場合には、作業内容とともに発生した問題等について十分な引継ぎを行うこと。 |
4 | 連続反応設備の修理作業のように複数の事業者または作業者がひとつの現場で作業を行う場合には、全体を統括して監視・監督できる監督者を選任し、作業の指揮・監督にあたらせること。 |
5 | 修理作業を行う場合は、作業に先立ってポンプ内部の黒液および蒸気の排出確認等を確実に行うこと。 |
6 | 高温・高圧の化学設備には、圧力計、温度計等作業者が設備内部の状況を客観的に判断できる装置を設置すること。 |
7 | 高温の強アルカリ溶液等有害な化学物質に触れる可能性がある作業では化学防護服、呼吸用保護具等の保護具を着用して作業を行うこと。 |
8 | 化学設備には、高温の水蒸気を二重に閉止するための措置および閉止板の設置すること。 |