化学工場内の排水処理設備の汚泥貯槽内の清掃作業中、作業者2名が硫化水素中毒
業種 | 化学工業 | |||||
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事業場規模 | 1〜4人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 異常気圧 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 保護具を使用していない |
No.100823
発生状況
この災害は、化学工場内における修理作業の一環として行われた排水処理設備汚泥貯水槽の清掃作業の際に、発生した硫化水素により作業者2名が中毒になったものである。
災害発生当日、汚泥貯水槽内の清掃作業が午後から半日程度の作業として計画されていた。作業に先立ち、発注元事業所の監督者Aが作業場所内計12箇所において作業環境中の酸素濃度および硫化水素濃度の測定を行ったが、すべての測定箇所において作業環境中の酸素濃度が21%以上、同じく硫化水素濃度が0.1ppm以下であったため、エアラインマスクを使用しないで作業を行うこととした。これを受けて当工事の2次下請け事業所の監視人Bの監視下で3次下請けの作業者CとDは槽内に入り清掃作業を開始した。また、この際作業場の換気も行わなかった。 作業開始後まもなく、作業個所周辺で硫化水素の臭気が強くなったため作業者CとDは直ちに槽内から出るよう指示受けたが、まもなく作業者Cが汚泥槽内で倒れこれを救助しようと試みた作業者Dもその場に昏倒してしまった。 2名ともその後、監視人Bらに救助されたが、搬送先の病院の医師により両者ともに硫化水素中毒と診断された(うち1名は休業10日)。なお、当日現場には第2種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を終了した者は立ち会っていなかった。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 災害の発生した貯槽は、嫌気性微生物の排泄物が堆積する場所であり、この場所は労働安全衛生法施行令で定めるピットやタンク内などの酸素欠乏作業箇所に該当していたにもかかわらず、作業にあたり第2種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、現場の指揮にあたらせなかったこと。 |
2 | 事前に策定されていた作業指示書の内容を第2種酸素欠乏危険作業主任者等専門的な知識を有する者の判断なしに変更したこと。 |
3 | 作業にあたる作業者に対し、第2種酸素欠乏危険作業特別教育を行わなかったこと。 |
4 | 作業前に行われた作業場の酸素濃度および硫化水素濃度のみで作業現場の危険性評価を行ったこと。 |
5 | 清掃の対象となっていた貯槽内の汚泥の中において微生物による分解等が起きていることが事前にわかっていたにもかかわらず、これについて危険性の評価を行わなかったこと。 |
6 | 作業中、作業場所である排水処理設備の貯槽の換気を連続して行わなかったこと。 |
7 | 作業者が作業を行うに際に、作業指示書により予定されていた空気呼吸器(エアラインマスク)を使用しなかったこと。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 酸素欠乏危険場所の作業においては、第2種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、適切な災害防止対策を講じ、関係者に徹底すること。 |
2 | 酸素欠乏等危険場所における作業を開始する前に、有害物の存在状況および発散源を把握するとともに、酸素濃度および硫化水素等を測定し、それぞれの濃度を基に作業場の状況を的確に把握すること。 |
3 | 作業中、作業を行う場所の空気中の酸素濃度を18%以上に、または硫化水素濃度を10ppm以下に保つように換気し、その効果を定期的に測定することによって確認すること。 |
4 | 被災者の救助活動のときは空気呼吸器等の適切な保護具を装着して行うこと。 |
5 | 酸素欠乏症、硫化水素中毒に関する知識の不足による障害を防止するため、酸素欠乏症等防止規則に定められた特別教育に基づき再度教育を行うこと。また、酸素欠乏症または硫化水素中毒等の事故に際し救助作業に関する保護具の使用方法、救急蘇生の方法や手順について併せて十分な教育を行うこと。 |
6 | 第2種酸素欠乏危険作業主任者は、作業に従事する労働者が酸素欠乏の空気および硫化水素を吸入しないように作業の方法を決定し、労働者を直接指揮すること。 |