収集した汚水をダンパー車からホースで産業廃棄物処理施設に投入していた作業者が硫化水素中毒
業種 | 産業廃棄物処理業 | |||||
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事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 有害物のガス、蒸気、粉じん | |||||
発生要因(人) | 憶測判断 | |||||
発生要因(管理) | 危険場所に近づく |
No.100822
発生状況
この災害は、収集した汚水をダンパー車から産業廃棄物処理施設の汚水槽にホースで投入する屋内作業場で発生したものである。
災害が発生した事業場は、昭和50年に設立され、産業廃棄物処理を業務としており、一日に75m3の汚水を処理することができる。下水処理施設の汚泥、工場の雑排水などを収集して、浄化処理後放流するまでを行う。 被災者の通常業務は、ダンプ車またはダンパー車で、汚水処理施設の汚泥、工場の雑排水を収集して、事業場の処理施設の投入口に投入するものである。 災害発生当日、被災者は10tダンプ車を用いて、広域下水処理施設の汚泥を引き取り、事業場の汚泥処理施設(脱水ケーキ投入室)に投入した後、引き続き、10tダンパー車に乗り換え、予定では同僚と2人でY社に出かけることになっていたが同僚の帰りが遅れたことから単独で汚水の回収に出かけた。 被災者は、Y社において家庭排水や食品工場、食堂、レストランの雑排水を一時的に貯蔵している屋外地下ピットから、10tの汚水の回収を終えて会社に戻った。 昼食後、被災者は引き取ってきた汚水を載せたダンパー車をバックで汚水処理室へ移動させ、汚水の臭気が周辺に漏れないよう同室と外部の境界に設けられたシャッターを完全に閉めた。 シャッターを閉じた後、ダンパー車後部にホースをつなぎ、投入槽の蓋をホイストで上方に引き上げて全開にし、開口部にホースを差し入れコックを手動で開き投入を開始したが、15分程したとき、激しい異臭を感じ意識を失って倒れた。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 収集した汚水をダンパー車から産業廃棄物処理施設の汚水槽の蓋を全開してホースで投入したとき、汚水槽内およびダンパー車のタンク内で発生していた硫化水素が屋内作業場に充満したこと。
汚水投入槽は、回収した汚水を投入するための槽で、常時ばっ気が行われ、汚水が長期間滞留することはないが、酸素欠乏危険場所であり、硫化水素が発生するおそれのある場所である。 また、ダンパー車のタンクは、汚水を回収するタンクであり、酸素欠乏危険場所に該当し、硫化水素が発生するおそれのある場所である。 なお、硫化水素は無色で腐卵臭をもつ空気よりやや重い気体で、3ppmで不快臭を感知するといわれており、酸欠の基準濃度は10ppmである。 |
2 | 汚水の臭気が周辺に漏れないよう汚水処理室と外部の境界に設けられたシャッターを完全に閉めたこと。 |
3 | 作業室内の換気を行わなかったこと。 |
4 | 安全衛生管理が不十分で、作業者に対する労働衛生教育が行われていなかったこと。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 硫化水素中毒のおそれのある場所内で作業を行う場合には、第2種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、作業の方法を決定し、作業者を指揮させること。 |
2 | 作業を開始する前に、硫化水素濃度を測定し、作業場所の状況を的確に把握すること。 |
3 | 作業場所の空気中の硫化水素濃度を10ppm以下に保つように換気し、その効果を再度、硫化水素濃度を測定することによって確認すること。 作業者が内部で作業している間は、均一に換気できるように、送気を継続する必要がある。 作業場所の自然換気が周辺への悪臭対策として困難な状態であれば、脱臭装置をつけた全体換気も検討されるべきである。 |
4 | 硫化水素が作業室内の発散することをできるだけ少なくするような作業方法を検討すること この事例の場合でも、汚水槽の蓋には、内径17cmのホース差込口があり、ホースの外形は12cmであるため、このホース差込口からの投入すれば、硫化水素が作業室内の発散することを少なくすることは可能である。 |
5 | 異常を早期に発見して適切な処置を迅速に行うため監視人を配置すること。 硫化水素中毒のおそれのある場所の外部から内部の監視が可能な場所に監視人を配置する。 異常の場合に備えて、呼吸用保護具などを整備しておく。 |
6 | 安全衛生管理体制を確立し、安全衛生管理を徹底するとともに、作業者の安全衛生教育を実施して硫化水素中毒の危険性を周知徹底すること。 |