硫化水素発生器の洗浄水を硫化水素吸収塔に投入する作業中、硫化水素中毒
業種 | 電子機器用・通信機器用部品製造業 | |||||
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事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.100773
発生状況
この災害は、硫化亜鉛の製造工程において、硫化水素発生器の洗浄水を硫化水素吸収塔に投入する作業中に発生したものである。 硫化亜鉛は、硫化亜鉛反応器内で前工程から送給された硫酸亜鉛に硫化水素を加えて生成する。硫化亜鉛反応器内に残った未反応の硫化水素は、硫化水素吸収塔に送られて、水酸化ナトリウムが加えられ硫化ナトリウムが生成する。この硫化ナトリウムは硫化水素発生器に送られ、硫酸が加えられて生成した硫化水素は硫化亜鉛反応器に戻して再利用される。 災害が発生した日の数日前、硫化水素発生器を洗浄し、その配管に残った洗浄水をバケツ9杯に溜めていた。 災害が発生した日、被災者は、溜められていた洗浄水の入ったバケツを硫化水素吸収塔まで台車に載せて運び、バケツから硫化水素吸収塔のマンホールへ洗浄水を直接投入する作業を行っていた。そして、3杯目の洗浄水を投入したところ、煙のようなものがタンク内部からマンホールの外に向けて排出されてきた。この煙を吸入した被災者はその場に倒れ込み意識を失ったので、近くにいた同僚が救急車を手配し病院に搬送し、診察を受けたところ硫化水素中毒と診断された。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | 硫化水素発生器を洗浄した際に、残存していた硫化ナトリウムと硫酸が洗浄水に混入していたため、これらの物質が反応して硫化水素が生成されていたこと。 |
2 | 洗浄水を投入した際に、硫化水素吸収塔内に残存していた硫化水素ガスが拡散してマンホールの外へ漏出したものと考えられること。 |
3 | 洗浄水を処理するための専用の設備が設けられていなかったため、前工程の硫化水素吸収塔へバケツ容器を用いて直接投入したこと。 |
4 | 硫化水素が送給されていた硫化水素吸収塔のマンホールを開けて作業行う際に、適切な保護具を使用していなかったこと。 |
5 | 洗浄水を処理する作業について、作業方法、保護具の着用などについて記載した作業マニュアルが作成されていなかったこと。 |
6 | 被災者が、硫化水素発生の機序についての知識が乏しく、硫化水素の危険性に関する認識が欠如していたこと。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 硫化水素発生器の洗浄水を再利用するときは、配管などにより密閉された系内で前工程に戻せるように設備的な改善が必要であること。 |
2 | 硫化水素発生器の洗浄水を廃棄する場合には、専用の廃棄処理槽を設け、配管などにより密閉化された状態で処理槽へ送ることができるように設備的な改善が必要であること。 |
3 | 硫化水素発生器の洗浄水を一時保管するときは、密閉容器を使用すること。 |
4 | 硫化水素発生器または硫化水素吸収塔のマンホール開けるなど解放して作業を行うときには、防毒マスクなど適切な保護具を着用すること。 |
5 | 硫化水素発生器などの洗浄作業およびその廃液を処理する作業については、作業方法、作業手順、保護具の着用などについて記載した作業マニュアルを作成し、周知徹底すること。 |
6 | 作業指揮者に、作業マニュアルの励行状況、保護具の着用状況などの監視を行わせること。 |
7 | 有害物の発生の機序、その有害性および防止対策などについて労働衛生教育を実施すること。 |