酸化亜鉛含有の塗料の塗布された鋼板等の溶断中に中毒
業種 | その他の金属製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 1〜4人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 金属材料 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.100755
発生状況
この災害は、ダムの放流設備に使用される酸化亜鉛含有の塗料が塗布された鋼板および鋼棒を溶断中に急性亜鉛中毒となったものである。 被災者の所属する会社は、各種プラント設備の製作・据付、工場等の鉄骨の製作・組立等を行っているところで、被災者は溶接工として働いている。 災害発生当日、被災者は、会社が製作して納入した建設中のダムの放流設備に使用する鋼製ベース(200mm×200mm×12mmの鋼板に4本の棒鋼(直径22.5mm)を溶接したもの)100個が規格に合わないため返却されてきたものについて、溶解アセチレンと酸素を用いたガス溶断装置で溶断するよう社長から指示された。 被災者は、急ぎの仕事として指示されたプラント部品の修理を初めに行い、続いてベースの溶断作業に取り掛かり、午前中はその作業を続けていた。 正午頃、外から帰ってきた社長は、締め切った部屋で溶断している被災者を見て、工場のシャッターを開けて行うよう指示し、午後1時頃再び外出した。 被災者は、午後の作業に先立ってシャッターと窓3箇所を開けて、午後1時から作業を開始し、午後5時45分頃には100個のベースの溶断を終了して帰宅した。 しかし、帰宅後、発熱と悪寒を感じ、また、立てなくなって、その状態が翌朝まで続いたので、会社に休むと伝えて午前10時頃に救急車で病院に行ったが、そこで急性亜鉛中毒と診断された。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | ベースの溶断中に酸化亜鉛ヒュームを吸入したこと 被災者がガス溶断していたダムの放流設備に使用する鋼製ベースには、酸化亜鉛を含有する塗料が塗布されており、溶断したときの熱により酸化亜鉛ヒュームとなって発散し、それを被災者が吸入したものと推定される。 なお、被災者は、午後4時頃に身体がフラフラするような不調を感じたが、そのまま作業を続行していた。 |
2 | 十分な換気等を行っていなかったこと 被災者が午前中に作業を行っていた部屋は、23m×12m、高さ6mという大きさであったが、シャッター(4.5m×4.5m)は締め切り、9箇所ある窓のうち2箇所と出入口のドア(0.9m×1.8m)を開けた状態で、十分な換気が行われていなかったため、溶断で発生したヒュームが部屋の中に充満していたと推定される。 |
3 | 溶断作業に伴う有害性を知らなかったこと ベースに塗布していた塗料の成分は、トルエン、エタノール、イソプロピルアルコール等を成分とする添着剤と酸化亜鉛(1〜10%)のものであったが、被災者はその有害性について認識はなかった。 なお、社長はシャッター等を開けることを指示しているが、以前に亜鉛メッキされた鋼材を自ら溶断しているときに、頭痛や目がチカチカした経験があったことから溶断作業の有害性をある程度認識していた。 |
4 | 安全衛生管理を実施していなかったこと この会社では種々の材質の製品の製作・修理や溶断を受注していたが、取り扱う材料等の成分の確認、強制換気装置の設置、呼吸用保護具の着用の指示等を行っていなかった。 また、労働者に対して、作業に伴う有害性等についての安全衛生教育、健康診断等の健康管理も実施していなかった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 作業開始前に適切な作業指示を行うこと 当日の作業を開始する前に、溶断する鋼材等に塗布されている塗料の成分等について確認の上、作業に伴う有害性等とその予防対策について適切な指示を行う。 |
2 | ヒューム等の有害性について教育を実施すること 酸化亜鉛は、皮膚・粘膜を刺激し、酸化亜鉛のヒュームを吸入すると、急に発熱し、悪寒、吐き気、嘔吐などの症状が出る有害な物質であるので、あらかじめ関連作業者に対してその予防対策を的確に指示、教育する。 なお、鋼材の溶断作業においては、ヒューム吸入による影響のほか、粉じんによる健康影響もあるので、併せて教育を実施する。 |
3 | 呼吸用保護具の着用等を指示すること 鋼材の溶断作業等において、身体に有害な影響を与えるおそれがある場合には、強制換気の設備を用意して稼動させるほか、必要に応じて適切な呼吸用保護具を確実に使用させる。(粉じん則第27条関連) |
4 | 適切な安全衛生管理を実施すること 規模の小さい事業場においても、安全衛生に関して一定の知識を有する者を安全衛生担当者として指名し、持ち込まれる各種鋼材等の成分の確認、溶断等に伴う健康障害に関する教育の実施、作業場所の巡視と必要な指導、健康診断など健康管理等を行わせることが必要である。(安衛則第44条関連) |