地下60mの送水管内の清掃作業中、モルタルの硬化熱で熱中症となる
業種 | 上下水道工事業 | |||||
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事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高温・低温環境 | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 上下水道工事 | ||||
災害の種類 | 高熱物等による | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 作業箇所の間隔空間の不足 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.100743
発生状況
この災害は、上水道を布設する工事において送水管の清掃作業中に発生したものである。この工事は、浄水場から供給地点までの総延長12kmの送水管(内径800mm)を布設するもので、内径約2mのシールドトンネルを泥水加圧シールド工法で掘削し、その中に送水管を入れて接合し、内径約2mのシールドとの空間にエアーモルタル(セメント、砂、混練水、気泡剤を混ぜ合わせたもの)を充填するものである。
災害発生前日までには、立坑から約1kmまでの送水管の据付けが完了し、そのうち約900mまではエアーモルタルの充填が完了していたが、豪雨により川が増水して他工区のドレン用配水管から川の水が流れ込み送水管内が汚れたので、いったん布設工事を中断して送水管内の清掃作業を行うことになった。
災害発生当日、9名の作業員は、台車に乗って一列になって大型スポンジと洗車用ブラシを使用して管内に溜まった水を立坑側へかき出す清掃作業を開始した。
作業を開始した当初は、管内はひんやりしていたが、1時間ほど経過した頃から送水管内は打設されたエアーモルタルの硬化熱によりの気温が上昇しはじめ、前に進むに従って異常な暑さとなった。
現場責任者は、立坑側の送水管の出口に向けて脱出するよう指示し、7名は自力で送水管から脱出できたが、2名が管内で動けなくなり、他の作業員が送水管の出口から80m〜100m付近で動けなくなっていた2名を救出した。
その後、2名を救急車で病院に移送し治療を受けたが、1名は熱中症により同日夜に死亡し、他の1名は熱中症により休業災害となった。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。1 | 送水管内が高熱になっていたこと 被災者らは内径800mmという狭い送水管内で作業を行っていたが、この送水管の周囲は前日にエアーモルタルが打設されたことにより、その硬化熱により全体として30℃以上、場所によっては50℃を超える状態となっていた。 |
2 | 作業計画を作成せずに作業を命じたこと 被災者らが行った清掃作業は、狭い送水管の中を1kmも進むという状態で、しかもエアーモルタルの硬化熱で管内の温度が上昇していることがある程度想定されたのに作業計画を作成せずに作業を命じた。 |
3 | 熱中症についての検討および教育を実施していなかったこと 会社は、高温度の環境下での作業で熱中症になるおそれがあったのにその検討を行わず、現場責任者にその意識がなく、作業者に対する教育も実施していなかった。 |
4 | 発注を含めた総合的な安全衛生管理を実施していなかったこと この工事では、複数の特定元方事業者が作業を行っていたにもかかわらず、発注者を含めて事前に相互の十分な打合わせを行っていなかった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。1 | 作業計画を定めること 土木工事等を行う場合には、発注条件に沿って定常的な作業を行う場合はもちろんのこと、突発的な事故等の修復のための非定常作業において想定される危険および人体に対する影響についてあらかじめ検討し、その対策を盛り込んだ作業計画を作成するとともに、関係作業者に周知徹底する。 |
2 | 熱中症に関する教育を実施すること 屋外で直射日光を浴びて行う作業、高温環境下で筋肉労働等を行う作業等に従事する責任者および作業者に対しては、あらかじめ熱中症の危険およびその対策(作業時間の短縮、休憩の付与、塩分・水分の補給等)について教育を実施する。 |
3 | 発注者を含む総合的な安全衛生管理を実施すること 一つの場所において複数の元方事業者が工事を施工する場合には、全体を統括管理する特定元方事業者を指名し、安衛法第30条に定める統括安全衛生管理を確実に実施させる。 また、発注者は、混在作業による危険防止のため統括安全衛生管理義務者の指名等を行うとともに、突発的に対応すべき事態が生じた場合には、その修復作業等に関して施工業者と綿密な協議、指導を実施する。 |