浚渫船のタンク点検中に酸素欠乏症となる
業種 | 港湾海岸工事業 | |||||
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事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 港湾海岸工事 | ||||
災害の種類 | 酸欠 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.100728
発生状況
この災害は、浚渫(しゅんせつ)船の傾きの原因調査中に発生したものである。主に港湾の浚渫工事を行っているX社では、約6か月の予定で湾内航路を浚渫し、その土砂を搬出する作業を夜間作業で実施していた。
災害発生当日、被災者らは、通常どおり前日の午後10時より開始した作業が午前4時30分頃に終了したので、工事部長Aが曳船の船長として浚渫船を繋留地に接岸したが、浚渫作業中に浚渫船が2度ほど右に傾いていたので、傾きの原因を見つけるために手分けして浚渫船各部の点検に取りかかった。
工事部長Aは、配下の作業者Bを引き連れ、まず機関室右舵の後方のマンホールを開けて見たが、傾きの原因がこのタンクではないことが判明した。
別のタンクを調べることにしたが、そのタンクには水が入っていたので、まず、水中ポンプで水を排出することにした。しかし、水は深く傾斜がついているタンクの奥まで入っており、しかも傾斜部には鉄骨材の仕切りがあったため、ホースの先をうまく水面に付けることが困難であったので、タンクの中に入って水を汲み出すことになった。
Bがマンホールから中に入ったが、その直後に叫び声をあげて倒れたので、Aも作業者を助けようと中に入り作業者と同様タンク内で倒れた。
2人は救急隊員にタンク内から救助されたが、2人とも酸素欠乏症のため死亡した。
原因
この災害は、浚渫船の傾きの原因調査のため、タンク内に入ったとき発生したものであるが、その災害原因としては、次のようなことが考えられる。
1
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海水が長期間滞留していたため酸素欠乏危険場所になっていたこと 災害が発生したタンク内には、海水が長期間にわたり溜まっていたため、内壁の酸化が進み、内部の酸素濃度が低下していた。 なお、同様の状態にあった別のタンクの酸素濃度を測定したところ僅か1.1%のものがあった。 |
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2
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酸素欠乏危険についての認識がなかったこと 工事部長には、酸素欠乏危険について認識がなく、救助にとっさに飛び込んで自分も被災した。 また、会社は、酸素欠乏危険に対する教育も実施していなかった。 |
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3
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作業計画を作成せずに点検作業を行ったこと 災害が発生したときの作業は、浚渫船の傾きの原因究明という船の基本的な機能に関するものであることから、必要な予備調査を行って点検・補修に関する作業計画を樹てて実施すべきであるのに、それを行わず安易にタンク内に入らせた。 |
対策
この災害は、浚渫船の傾きの原因調査のため、タンク内に入ったとき発生したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1
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計画を作成して点検作業等を実施すること 海水が長期間滞留しているタンク、相当期間密閉されていたタンク等は、酸素欠乏危険場所であるので、その内部に立ち入る作業についてはあらかじめ酸素濃度の測定、換気設備の要否、必要な保護具の準備等を含めた作業計画を作成のうえ作業を実施する。 (酸欠則第3条〜7条関連) |
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2
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特別教育を実施すること 汚水、腐泥、発酵する物、海水などがはいっていたり、入れたことのあるタンクなどの内部のように酸素欠乏のおそれのある危険な場所で作業を行う者に対しては、あらかじめ酸素欠乏等に関する特別教育を実施する。(令別表6、酸欠則第12条関連) |
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3
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作業主任者を選任して作業を行うこと 酸素欠乏危険作業については、技能講習を修了した者の中から作業主任者を選任し、その者の直接指揮の下で作業を行わせる。(酸欠則第11条関連) |