学校の厨房の清掃中に塩素ガス中毒
業種 | 教育・研究業 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
|
|||||
発生要因(物) | その他保護具を指定していない | |||||
発生要因(人) | 無意識行動 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.100723
発生状況
この災害は、学校の厚生会館厨房の清掃作業中に薬品が反応し中毒となったものである。災害発生当日、厨房係の8人は、正午から職員、学生たちの昼食のための配膳作業を行い、その後、自分たちの昼食をとってから食器の洗浄作業と夕食の下準備作業などに取り掛かったが、うち4人は食器の洗浄作業等を行うことになった。
そのうち1人は、厨房床面を洗浄するため、洗剤置場から4リットル用のジョウロに漂白剤(2リットルの原液)と水酸化ナトリウムを主成分とする厨房機器・設備用洗剤(50ccの原液)を混入させ、ジョウロで踏み込み槽(外からの細菌類の侵入を防ぐため厨房の出入り口に設置されている槽)付近から厨房の中央付近まで撒いた。
散布作業が3〜4分経過したときに、厨房に入ってきた者が異臭に気づき、踏み込み槽の近くで食器の洗浄を行っていた者などに知らせ、中にいた者が厨房内の窓2か所とその下の金網付きの窓2か所を開いていったん建物の外に避難したが、食器の洗浄作業がまだ残っていたので2〜3分後に再び厨房内に戻った。
しかし、作業を続行できる状態ではなかったので職場管理者に連絡し、職場管理者が厨房に行ってみると異常な状態であったので直ちに作業の中止を命じ、関係の4名を直ちに室外へ退去させるとともに、室内の窓をすべて開け大型扇風機で食堂ホールの方向に空気を拡散させた。
その結果、7〜8分後には異臭が消えたので、4名は厨房に戻り残った作業を終わらせ、午後2時30分頃に所定の勤務を終えてそれぞれ帰宅した。
翌日から2日間は土日のため4名は勤務しなかったが、うち1名は2日間とも一日中体がだるく、他の1名も平衡感覚が保てず真っ直ぐに歩けなかった。
2日間の休日を終えて2名は早朝勤務に就いたが、身体の調子が悪いので病院にいき診察を受けたところ、塩素ガス中毒と診断され14日と7日の休業となった。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1
|
床洗浄のために散布したクリーナー液が踏み込み槽の溶液と混合したこと 床清掃担当の者が床面に散布した漂白剤と水酸化ナトリウムの混合液が、厨房への立ち入り時の消毒のため厨房入口に配置されている踏み込み槽に入り、そこに入っていた塩素系洗剤(ジクロロイソシアヌル酸)と漂白剤が化学反応し、塩素ガス(HCl2)が発生したものと推定される。 なお、塩素の人体への影響としては、皮膚接触により炎症を起こす。吸入すると咳が出て灼熱感があり、呼吸困難となって肺水腫を起こし死亡することがある。 |
2
|
使用している洗剤等による有害性が知らされていなかったこと 被災者らはかなりの年数厨房における作業に従事していたが、管理者から複数の洗浄液等の混合禁止等について指示を受けたこともなく、身体には無害なものとの認識で作業を繰り返していた。 |
3
|
安全衛生管理体制がなかったこと 給食の業務は学校の互助会が行っていたが、調理等の作業を行う者が空き時間を利用して自宅に帰るなど比較的融通のきく勤務態様であったこともあり、従業員の安全衛生管理という視点での管理を実施しておらず、また、洗剤等の混合使用による危険有害性について検討することも行っていなかった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1
|
危険有害性についての情報を収集すること 有機溶剤、化学物質等の中には人体に有害なもの、爆発危険があるものが少なくないので、その使用に際しては危険有害性を確認し、できれば危険有害性のないものに換えることが望ましい。 やむを得ず使用する場合には、容器または包装に表示されている次の事項を確認し、表示が不十分または疑問の場合は製造業者等に照会し、適切な使用を行う。 |
|
(1)
|
名称 | |
(2)
|
成分およびその含有量 | |
(3)
|
人体に及ぼす影響 | |
(4)
|
貯蔵または取扱上の注意 | |
(5)
|
流出その他の事故が発生した場合において講ずべき事項 等 (安衛法第57条、第57条の2等関連) |
|
2
|
作業の手順を定め作業の指揮を行うこと 厨房の洗浄、清掃の作業を行う場合には、作業を開始する前に、使用する洗剤の種類、作業用機器、作業人員、関係者以外の立ち入り禁止、保護具の使用などを含む作業計画と作業の手順を定めるとともに、洗剤等の危険有害性について知識を有する者を指揮者として指名し、その者の直接指揮のもとに作業を行う。 また、単品として使用する場合でも狭い室内等で使用する場合には、換気が十分なように窓などを開放するか、換気装置を使用する。 |
|
3
|
安全衛生教育を実施すること 厨房の洗浄等の作業は、日常生活における洗浄作業の延長のような理解で安易に作業を命じ、また作業を行うおそれがあるが、汚染の状態、洗浄・清掃の範囲等の関係で洗浄力の大きい洗剤を使用することもあるので、メーカー等から得た化学物質等安全性データシート(MSDS)の情報に基づき、関係作業者に十分な安全衛生教育を実施する。 |
|
4
|
安全衛生管理体制を整備すること
厨房内における作業においては、洗剤等による人体への影響のほか、ガスによる爆発火災、電気機器や電気配線による感電などの危険が少なくないので、事業場として安全衛生管理を担当する者(労働者数が50名以上の場合は衛生管理者の選任、10−49名の場合は衛生推進者の選任が最低限必要)を養成、指名し、安全管理計画の作成、作業手順の作成、安全衛生教育の実施、職場の巡視等の安全衛生管理を実施する。 (安全衛生法第11条、12条、12条の2関連) |