中間体を製造中、反応釜から噴出した有害物が近隣まで拡散
業種 | 無機・有機化学工業製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 5〜15人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 設計不良 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.100718
発生状況
この災害は、写真関係の化学薬品中間体の製造中に発生したものである。この会社は染料や各種有機化学品の製造を行っているところであるが、ある化学会社から写真関係の中間体であるとしてN−フェニルグリシンエチルエステルの製造を受注した。
災害発生当日、作業員は、午前9時頃から、発注会社から提示された製造作業基準書の手順に従い、反応釜(直径150cm、高さ21cm、内容積が2,000リットルの円筒形)に原料のアニリン(液体)とモノクロロ酢酸エチル(液体)と粒子状結晶の酢酸ナトリウム三水和物を投入し、午前9時40分頃から攪拌機を動かし、ジャケットに蒸気を送り加熱を始めた。
午前10時37分頃、釜の中でやや激しい沸騰が起こり、その後一時沈静化したが、午前10時45分頃再び激しい突沸が起こって、反応釜の原料供給用ノズルのゴム栓が吹き飛んで、蒸気とモノクロロ酢酸エチル等の混合物が噴出した。
この噴出した蒸気等が工場の換気扇を通じて工場外に広がり、会社の西隣の工場労働者10名と北隣の会社労働者2名が眼の刺激や喉の痛み等を訴え診察を受け、そのうち西隣の工場の10名のうち1名が呼吸困難等のため入院した。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。1 | 攪拌が不十分なため、下層の水が沸騰したこと 釜に投入したアニリンとモノクロロ酢酸エチルは、相互に溶解しないため攪拌が不十分で比重の軽いアニリンが上に、比重の大きい水を含んだモノクロロ酢酸エチルが下の層に分かれた状態のまま115℃を目指して加熱したことにより、下の層のモノクロロ酢酸エチル液に含まれた水が過熱状態となって急速に沸騰する突沸を起こした。 |
2 | 初めて製造する中間体であるのにテストを行わなかったこと この中間体は依頼を受けて初めて製造するものであったが、本格生産を開始する前にテスト操業を行わず、発注者から提供された製造作業基準書に基づいていきなり本操業を行った。 |
3 | 安全衛生教育を実施していなかったこと この会社は小規模のところであるが、危険有害な作業があるのに安全衛生管理体制がなく、また、作業員に対する安全衛生教育も実施していなかった。 |
4 | 緊急時の連絡体制がなかったこと この会社では、事故が発生し近隣へ影響するような場合を想定していなかったため、他の事業所への避難等の連絡が遅れてしまった。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。1 | 作業マニュアルを定めて作業を行うこと 化学反応等により突沸のおそれがある製造工程のものについては、あらかじめリスクアセスメントを行い、安全対策を講じた作業マニュアルを定めてから作業を行わせる。 |
2 | 化学反応等を伴うものを新規に製造する場合には予備テストを行うこと 化学反応等を伴うものを新たに受注した場合には、提示された製造作業基準書の細目まで検討するとともに、本格的な製造の前に予備テストを行い、その結果を確認のうえ本操業に入る。 |
3 | 作業者に対して安全衛生教育を実施すること 化学反応等を伴う作業に従事する者に対しては、あらかじめ取り扱い物質、反応の危険有害性および機械設備の取り扱い等に関して十分に安全衛生教育を行う。 |
4 | 非常時の措置および連絡体制の整備を行うこと 化学物質の異常反応により危険有害物が漏出した場合等の措置および近隣への連絡体制を整備し、避難訓練等を定期に実施する。 |