加温庫内で融解中の固化したアクリル酸が入ったドラム缶が破裂
業種 | 無機・有機化学工業製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 30〜99人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 荷姿の物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 破裂 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 設計不良 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 不意の危険に対する措置の不履行 |
No.100697
発生状況
この災害は、工場内の加温庫内でドラム缶に入れた固化したアクリル酸を融解していたとき、ドラム缶内の圧力が異常に上昇してドラム缶が破裂したものである。災害が発生した日の前々日から、重合防止剤が添加された固化したアクリル酸の入ったドラム缶を保温庫内に入れ、温度を45℃〜60℃に設定して融解させていた。このとき、ドラム缶の1缶に液だれが認められたがそのまま保温庫内に収納していた。
災害が発生した日、午前5時頃に設備管理担当者が保温庫の前を通りかかったとき保温庫から白煙と刺激臭が発生していることに気付き、蒸気の送給バルブを閉止し、その旨を製造担当責任者に通報した。
通報を受けた製造担当責任者は、直ちに保温庫前に駆けつけ、設備管理担当者とともに状況の確認を始めた。先ず、保温庫の左側の前扉を少し開けたところ、大量の白煙が排出してきた。
そのとき、「ドン」という大きな音とともに加温庫内にあった右側奥の保温庫壁面側に置かれていた1缶が破裂して、設備管理担当者は飛び散ったアクリル酸を浴び、製造担当責任者はドラム缶が破裂した際の衝撃で吹き飛ばされた保温庫右側の前扉の下敷きとなった。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。1 | アクリル酸の融解する過程で添加された重合防止剤が局所的に少なくなった部分を生じ、その部分で加温による重合反応を引き起こし、缶内の圧力上昇により亀裂が生じ、アクリル酸の蒸気が白煙となって噴出し、破裂するに至ったものと推定されること |
2 | 加温庫に設けられたラジエターにより温められた空気を加温庫の天井部に取り付けた2基のファンにより循環していたが、庫内を2段に分ける棚が邪魔になり、庫内の空気が均一に循環し難くなり、局部的な高温個所が発生したものと推定されること |
3 | 作業標準書には固化したアクリル酸は温浴で融解させることと示されていたが、ドラム缶を温浴させる設備がなく、現場の実態と乖離した作業標準であったこと |
4 | 保温庫内に入れたドラム缶に液だれが確認されており、さびなどの除去が完全に行われていないものが使用された可能性があること |
5 | 原材料のストック量を少なくするため、融解に要する時間を短くすることができる高温による融解が可能な保温庫を使用していたこと |
6 | 固化したアクリル酸を融解するときの重合反応に関する知識がなかったこと |
対策
同種災害を防止するためには、次のような対策の徹底が必要である。1 | 温浴などの方法によりアクリル酸の重合反応を引き起こさない温度以下で全量が均一に混合されるように融解する必要があること なお、融解装置には、局部的に高温になる部分が生じないような確実に安全側に作動する温度制御を行う装置を組み込むことも必要であること |
2 | 生産計画に応じて融解に要する時間に見合った原材料をストックすることが必要であること |
3 | ドラム缶入りのアクリル酸の工場内への搬入時、ドラム缶の損傷の有無などについての異常の有無をチェックする検収マニュアルを作成して検収を実施すること |
4 | アクリル酸に関するMSDSなどの情報を活用し、固化したアクリル酸の融解に伴う危険性の検討を実施し、これらの検討結果を踏まえた必要な設備の整備、および現場で実行可能なマニュアル類を整備し周知徹底すること |
5 | 作業の指揮者を指名して、その者に作業手順どおりに作業が行われるように作業を直接指揮させること |
6 | アクリル酸などの引火性物質の取扱いについて、化学的性質およびその危険・有害性、およびその対策などについて安全教育を実施すること |