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労働災害事例

排水処理施設において中和用の希硫酸を作っているときにホースから硫酸が噴出

排水処理施設において中和用の希硫酸を作っているときにホースから硫酸が噴出
業種 産業廃棄物処理業
事業場規模 30〜99人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 危険物、有害物等
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:0人 休業者数:1人
不休者数:0人 行方不明者数:0人
発生要因(物) 老朽、疲労、使用限界
発生要因(人) 無意識行動
発生要因(管理) 機械装置等を運転したまま離れる

No.100675

発生状況

 この災害は、地方公共団体の排水処理施設において廃液の中和に使用する希硫酸をつくる作業中に発生したものである。
 この施設では、廃棄物の収集を行い、そのうち可燃物は焼却してその灰は凝縮処理後に埋め立てとして使用しているが、凝縮処理にアルカリ剤を使用しているためその排液処理に希硫酸を使用している。
 その希硫酸は、処理施設1階に保管されている硫酸(18リットルポリタンク12個)を消費状況に応じて水で希釈して作っているが、希釈作業はほとんど被災者1人で行っていた。
 災害発生当日、被災者は、午後3時頃から希釈作業を開始し、作業準備として手袋をはめていた時に、以前この業務に従事していて現在はごみの収集業務を行っている同僚が自分の業務を終えて被災者のところを通りかかり、手伝いを申し出た。
 被災者は、同僚のアドバイスに従い、次の手順でポリタンク(400リットル)に濃硫酸の注入を開始した。
(1) 希釈用の水(普通の水道水)をタンクに注入する
(2) 濃硫酸入りポリタンク1個を運んできて、ポンプに異常がないことを確認し、18リットルのタンクに差し込む
(3) タンクの蓋を開け、ホースの先端を20cmほど差し込んで蓋を下ろす
(4) ホースが緩まないように手を添えてポンプのスイッチを入れる
 このタンクへの濃硫酸の注入が始まってから、30秒ほど経過したときに、突然ホースから濃硫酸が噴出し、近くにいた被災者がそれを浴びた。
 被災者は、直ちに足元にあった水道水ホースから水を出して顔にかけ洗浄した。これに気づいた同僚が電動ポンプを止めて報告のため事務所に走り、その後、施設の車で病院に被災者を移送し治療したが、上肢、顔面火傷等のため1か月の休業となった。
 なお、同僚も大腿部に一部の液がかかりポリエステル製の作業ズボンに穴があいたが、水道水で洗浄したことにより身体に特に異常は出なかった。

原因

 この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1  注入用ホースに穴があいていたこと
 事故後に注入用ホースの状況を調査したところ、ホース全体が硬化していて先端より18cmのところから10cmに亘り潰れており、また、先端より70cmのところから12cmに亘りホースが筋状に膨張していて、そこに直径5〜10mmの穴が3個空いていたので、濃硫酸はこの穴から噴出したものである。
 穴が空いた原因としては、ホースの使用後の洗浄および保管要領が悪かったため、蛇腹上のホースの窪みに濃硫酸と水が残留していて窪みの中で反応し、発熱して腐食したものと推定される。
2  作業主任者を選任していなかったこと
 硫酸の取扱業務は、特定化学物質等作業主任者を選任して行う必要があり、施設内にはこの資格を有している者が1名いたものの、焼却施設の運転管理担当となっていて、肝心の硫酸の取扱業務には関係していなかった。
3  保護具を使用していなかったこと
 被災者および同僚は保護手袋と長靴は着用していたが、保護衣、保護帽、面覆い、保護メガネ等は着用していなかった。
4  安全衛生教育を実施していなかったこと
 被災者は、希釈作業担当を命ぜられたときに、前任者から作業要領についての説明は受けたが、硫酸の危険有害性、その防止対策等についての教育は受けていなかった。
5  安全衛生管理を実施していなかったこと
 施設に安全衛生委員会は設置されていたが、不定期に開催されるだけで、作業に関連した安全衛生問題について調査審議することもなかった。
 また、安全管理者、衛生管理者、産業医も選任はされていたが、職場巡視を行うこともなかった。

対策

 同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1
 硫酸の希釈設備等の改善を行うこと
 硫酸の希釈作業に使用する設備、ホース等については、腐食に十分に耐える材料のものとするとともに、ホース等に硫酸が残存しない構造のものに改善する。(特化則第25条関連、参考同則第13条)
 また、定期に設備等の腐食の状況などを点検するとともに、関係者以外の立ち入りを禁止する。
2
 作業主任者を選任しその職務を遂行させること
 特定化学物質等作業主任者を選任し、次の職務を行わせる。(特化則第27,28条関連)
(1)
作業に従事する労働者が特定化学物質等により汚染され、又はこれらを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
(2)
局所排気装置、除じん装置、排ガス処理装置、廃液処理装置等を1月を越えない期間ごとに点検すること。
(3)
保護具の使用状況を監視すること。
なお、人事異動等により有資格者が配置できないことが生じないよう、あらかじめ資格者の養成を行う。
3
 必要な保護具等を備え付け使用させること
 特定化学物質等を取り扱う作業場には、そのガス、蒸気又は粉じんを吸入することによる健康障害を予防するための呼吸用保護具、不浸透性の保護衣、保護手袋、保護長靴並びに塗布剤を備え付ける。(特化則第43,44,45条関連)
4
 安全衛生教育を実施すること
 作業者を配置転換した場合には、法定の安全衛生教育を実施する。(安衛則第35条関連)

5

 

 安全衛生管理を実施すること
 安全衛生委員会を定期に開催し、事業場内の安全衛生に関する問題とその対策について調査審議を行う。
 また、安全管理者、衛生管理者、産業医は、定期または随時に職場を巡視し必要な指導を行うとともに、経営トップおよび各級管理者も職場を巡視し職場の実態と作業手順の遵守状況等を確認する。(安衛則第4,6,7,11,13,15,21,22条関連)