長期間使用されていなかった濃硫酸入りのドラム缶の栓をアセチレンバーナで加熱して開けようとしたとき、ドラム缶が爆発
業種 | 無機・有機化学工業製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 16〜29人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 可燃性のガス | |||||
災害の種類(事故の型) | 爆発 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 有害物のガス、蒸気、粉じん | |||||
発生要因(人) | 省略行為 | |||||
発生要因(管理) | 危険物が入っているものの |
No.100394
発生状況
この災害は、有機化学工業製品製造工場において、長期間使用されていなかった濃硫酸入りのドラム缶の栓をアセチレンバーナで加熱して開けようとしたとき、ドラム缶が爆発したものである。災害発生当日、製品製造に使用する濃硫酸(純度98%)をドラム缶からタンクに汲み上げることになった。そのドラム缶は、購入して10ヶ月経っていたためか、ドラム天板が膨らんでいて、栓は堅くてレンチで開けることができなかった。通りかかった常務Aはこれを見てドラム缶内に水素が発生していると判断し、作業者Bらに、天板の小さい方の栓を開け、内部のガスを出したのち、その栓穴から手動ポンプで濃硫酸を別のドラム缶に移し替えるように指示した。Bは小さい方の栓を開けてガス抜きをしたが、栓穴が小さく大型の手動ポンプのホースが入らなかったので、工具を使って大きい栓を開けようとしたが、どうしても開けることができなかった。
そこで、栓を加熱してみることになり、Bがアセチレンバーナの火炎を栓に近づけた瞬間、ドラム缶が爆発・破裂し、Bは頭にドラム缶が直撃して即死し、近くにいた作業員が飛散した濃硫酸を顔等に浴び薬傷を負った。
原因
この災害は、長期間使用されていなかった濃硫酸入りのドラム缶の栓をアセチレンバーナで加熱して開けようとしたとき、ドラム缶内に滞留していた水素が爆発したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。1 長期間濃硫酸をドラム缶に保管していたため、缶内の空気、水分または不純物により濃硫酸とドラム缶内壁の鉄が反応し、水素が発生していたこと
2 濃硫酸を他のドラム缶に移し替えようとドラム天板の小さい栓を開けた時に、ポンプのホースが栓内に入るような適切なポンプを使用しなかったこと
3 ドラム缶の大きい方の栓が開かなかった時に、ガス抜きはしたものの、十分に換気しないで、アセチレンバーナで加熱したため、滞留していた水素に着火し、爆発したこと
4 濃硫酸ドラム缶を加熱する時に、内部に可燃性ガスが存在し、爆発危険性があることについての安全知識がなかったこと
5 ドラム缶等の加熱・切断作業のような非定常作業について、作業手順がなく、安全管理が不十分であったこと
対策
この災害は、長期間使用されていなかった濃硫酸入りのドラム缶の栓をアセチレンバーナで加熱して開けようとしたとき、ドラム缶内に滞留していた水素が爆発したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。1 硫酸のような化学物質が入っているドラム缶または入れたことのあるドラム缶などの空容器は、缶内の空間部に爆発危険性のある可燃性ガスが滞留していることがあることに留意して作業を計画すること
2 ドラム缶等密閉容器をバーナなどで加熱、切断の作業を行う場合は、危険・有害物を確実に排除し、空間部に水または窒素のような不活性ガスを封入したのちに、加熱などの作業を行うこと
3 化学物質が入ったドラム缶、または、引火性物質が入っていた空容器には缶内に爆発危険性のあるガスまたは蒸気が残存しているおそれがあることについて作業者に対して安全教育を十分に行うこと
4 ドラム缶の加熱・切断作業のような非定常作業については、あらかじめ作業手順書を作成して、作業者に周知するなど安全管理を徹底すること