新造のタンクローリー内で汚れ落し作業中、有機溶剤中毒
業種 | 自動車・同付属品製造業 | |||||
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事業場規模 | 100〜299人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | その他保護具を指定していない | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 保護具の選択、使用方法の誤り |
No.100372
発生状況
この災害は、タンクローリー等特装自動車製造工場において、有機溶剤を使用してタンク内の汚れを拭き取る作業中、作業者が中毒したものである。災害発生当日、ガソリン、軽油等を運搬するタンクローリーのタンクに配管等の取付け作業を行っていた作業者が、タンク内に溶接前タンクの鏡板(かがみいた)のエッジ部分に貼ってあったガムテープの糊の跡などの汚れが残っているのを発見し、溶接担当の製缶部門に連絡した。 製缶部門の班長Aから除去するように指示された製缶工Bは、一斗缶を高さ13cmに輪切りした容器に入れたジクロロメタンをタンクローリーのタンクのうち指摘されたタンク(容積2 kl)のマンホールの位置まで運び、ジクロロメタンを染み込ませた布で内部の汚れを拭き取る作業を開始した。
初めのうちはタンクの外から作業を行っていたが、開始後10分位して容器ごとタンク内に入り作業を続けた。しばらくして、近くで別の作業を行っていた作業者CがBの姿が見えないので、タンクの中をのぞいてみると、Bが倒れていた。
連絡により駆けつけた班長Aにより救出され、人工呼吸で意識が回復したが、移送された病院で肺炎症状のため7日間入院した。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。1 有機溶剤の蒸気を吸入したこと
被災者が中に入ったタンクは、マンホール以外に空気の出入り口がなく、中で作業を行う場合には換気の措置が必要であったのに実施していなかったため、有機溶剤による急性中毒になったものである。
(ジクロロメタンの許容濃度は、ACGIH の値で50ppm 、日本産業衛生学会の値で50ppmであるが、事故後の再現実験結果では300ppmであった)
2 呼吸用保護具の選定を誤ったこと
被災者がタンク内での作業に使用した保護マスクは、自分が溶接作業で使用していた防じんマスクであった。
3 有機溶剤作業主任者がその職務を果たしていなかったこと
この工場には、有機溶剤作業主任者の資格を有する者がいたが、この作業についてはその職務を果たしていなかった。
4 製缶部門の班長は汚れ落としの作業を安易に考えて、使用する有機溶剤の有害性を検討しないで作業を指示し、作業者にも有機溶剤の有害性の知識が無かったこと
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。1 タンク内作業には送気マスクの使用などを命じること
タンク内で有機溶剤等を使用する作業を命ずるときには、送気マスクの使用あるいは換気の措置を行うこと、有機ガス用保護マスクを使用することなどを明確に指示することが必要である。
2 部門間の連絡調整を十分に行うこと
製作した製品の不具合部分の手直しなどを行う場合には、縦割りで仕事の分担を行わずに、作業の内容などについて関係者間で十分な連絡調整を行うことが必要である。
なお、有機溶剤作業の場合は、有機溶剤作業主任者の資格を有する者を加えて打ち合わせを行うとともに、その作業主任者の指揮のもとで作業を行うことが必要である。
3 有機溶剤を使用する作業については、危険有害性、障害防止のための措置等有機溶剤に関する特別の教育を実施すること
4 代替品を使用すること
タンク内の汚れ落としなどの作業が度々ある場合には、人体に有害でない代替品の採用について検討することも必要である。