半導体素子製造工場において、使用した薬液の廃液の処理を誤り、塩化水素が発生して作業者が被災
業種 | 電子機器用・通信機器用部品製造業 | |||||
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事業場規模 | 1000人以上 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 作業環境の欠陥(部外の) | |||||
発生要因(人) | 無意識行動 | |||||
発生要因(管理) | 組合せては危険なものを混ぜる |
No.100371
発生状況
この災害は、半導体素子製造工場において、ウエハーのエッチングに使用した薬液の廃液の処理を誤り、塩化水素ガスが発生し、作業者がこれにより障害を受けたものである。この工場のクリーンルームにおいて、ガリウム砒素ウエハーが膜付前洗浄、マーキング、拡散膜生成等の工程により製造されている。 膜付前洗浄作業とマーキング作業は隣接したドラフトにおいて、薬液を入れたビーカー内で行っているが、薬液は膜付前洗浄作業では硫酸・過酸化水素・純水の混合液Mを、マーキング作業でリン酸・塩酸の混合液Nを使用している。M液は使用後、別室にある洗浄廃液回収用ポリタンク(容積20リットル)に溜めておき、処理業者が収集して処理し、N液の廃液はマーキング作業を行うドラフトに隣接するドラフトのシンクに水を流しながら投入し、事業所内の排水処理装置で処理している。
災害発生当日、午後3時45分頃廃液の処理をしていた作業者Aはビーカーに入っていた約0.5リットルのN液をM液と勘違いし、約6リットル入っていたM液回収用ポリタンクに投入した。
4時過ぎ頃この容器から白煙が吹き出してクリーンルーム内に広がり、室内にいた3名の作業者が目の痛みを訴え治療を受けた。
原因
この災害は、半導体素子製造工場において洗浄等薬液の廃液の処理を誤り、塩化水素ガスが発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。1 膜付前洗浄作業用薬液Mの廃液回収ポリタンクにマーキング用薬液Nの廃液を投入したため、塩化水素ガスが発生したこと
M液の廃液(硫酸濃度約63% 約5〜6リットル)が入ったタンクに塩酸を含有するN液の廃液0.5リットルを投入したとき、発熱し、塩化水素ガスが分離して放出された。
2 M液の廃液もN液の廃液も無色透明であり、また、それぞれが入っていたビーカーも同じ大きさで、外見的には容易に識別できない状態であったこと
3 ポリタンクの蓋をしないで、漏斗を差し込んだままの状態であったため、発生した塩化水素ガスがクリーンルーム内に発散したこと
4 種類の異なる廃液の処理作業についての作業マニュアルや安全衛生教育が不十分であったこと
作業者Aは、廃液の混合による危険性について理解していなかったため、十分な注意を払わないで作業を行った。
対策
この災害は、半導体素子製造工場において、洗浄等薬液の廃液の処理を誤って発生したものであるが、同種災害を防止するためには、次のような対策の徹底が必要である。1 種類の異なる薬液を入れるビーカーは、取り違えないように、それぞれの用途を表示する等により明確に区別して、廃棄する場合に取り違えないようにすること
2 廃液回収用ポリタンクには、廃液の種類を明示し、指定された廃液以外の注入を禁止することを明確に表示すること
3 廃液回収用ポリタンクは確実に蓋をし、又は適切な排気装置を設置するなどにより、ポリタンクから発生した化学物質の蒸気が作業室内に漏出しないようにすること
4 生産の主要な作業のみならず、廃液処理等附帯する副作業についても、リスクアセスメントを行い、異常事態発生時の対応を含めて作業マニュアルの整備を行うこと
5 安全衛生教育を徹底するとともに、緊急時に対応する実地訓練を実施すること
具体的に危険の内容および対策を示し、レベルに応じた警告マークにより表示する等その危険性を理解させ、また、その実施状況について、常に確認する必要がある。