乾電池用正極板を乾燥中に接着剤が熱分解してハロゲンガスが生成し、多数が気道障害
業種 | その他の電気機械器具製造業 | |||||
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事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | 設計不良 | |||||
発生要因(人) | 危険感覚 | |||||
発生要因(管理) | 荷等の積み過ぎ |
No.100320
発生状況
この災害は、カメラ用リチウム電池製造工場において、正極板の熱風乾燥作業中に発生したものである。熱風乾燥作業は、 正極板製造に使用した結着剤 (四フッ化エチレンと界面活性剤と水の混合物) を熱処理することにより、界面活性剤と水分を飛ばして正極板の性能を向上させるために行うものである。
災害発生当日、被災者らは正極板10万1千枚を260℃で3時間熱風乾燥をする予定で、2基の台車に積み込んで乾燥炉に入れた。
2基の台車には、 それぞれ8段の棚板が載せられるようになっており、 そのうちの1基には正極板600枚1組のカセットを各1段積みにし、 他の1基には同カセットを各2段積みにしてあった。
乾燥炉の温度を予定の260℃に上昇させてから約2時間40分が経過したときに、 炉から異臭が発生し、白煙が出はじめ、 炉の上部の吸気口から炎が見えた。
作業主任者Aと熱処理担当者Bは直に炉を開け、電源を切り、消火器で消火後、換気装置で換気したが、炉から漏出したガスを吸入して昏倒した。
また、救助に駆けつけた者、消火に当たった者など16名が漏出ガスを吸入し被災した。
原因
この原因としては、次のようなことが考えられる。 | ||
1 | 乾燥炉内の1基の台車にカセットで2段積みしていた正極板が過熱して異常な温度に上昇したため、結着剤が分解してハロゲンガス (フッ化水素、 フッ化カルボニル)が生成し、漏出したこと | |
2 | 乾燥炉に設計上の問題点があったこと | |
(1) | 炉内温度の測定は、気中温度を測定するようになっており、正極板の温度が直接検出できなかった。 | |
(2) | 非常用窒素ガスの自動噴出装置が設置されてはいたが、 乾燥炉の電源回路と同一回路であり、 火災発生時に炉の電源をしゃ断したことにより作動しなくなっていた。 | |
3 | 正極板の熱処理について、 過熱による火災を予防するための作業要領が作成されていなかったこと | |
4 | ハロゲンガスに有効な保護具を着用しな いで被災者の救出に当たり、 二次災害を招 いたこと |
対策
同種災害防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | ||
1 | 正極板を入れたカセットを2段積みにして乾燥する方法を禁止すること | |
2 | 乾燥炉の温度計測装置などについて設計の変更を行うこと | |
(1) | 炉内温度を管理する方法として、 気中温度の測定のほかに、 正極板の温度監視のための警報付き記録計を設置する。 | |
(2) | 非常時に封入する窒素ガスの自動噴出装置の電源は乾燥炉とは別にする。 | |
3 | 結着剤に含まれる四フッ化エチレン等の危険有害性などについて、 化学物質等安全データシート(MSDS)などを活用して関係作業者に安全衛生教育を行うこと | |
(1) | 含有化学物質とその分解生成物の危険有害性 | |
(2) | 被災者に対する応急措置 | |
(3) | 火災発生時の避難訓練 (ハロゲンガスに有効な保護具の着用を含む。) | |
4 | 乾燥設備作業主任者に対して再教育を実施することなど安全衛生管理を徹底すること |