ホテルの温泉水滅菌用薬液タンクに誤って塩酸を投入し中毒
業種 | ビルメンテナンス業 | |||||
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事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | その他保護具を指定していない | |||||
発生要因(人) | 無意識行動 | |||||
発生要因(管理) | 組合せては危険なものを混ぜる |
No.100317
発生状況
この災害は、ホテル地下の温泉水処理室において、滅菌用薬液タンクに薬液を補充する作業中に発生したものである。災害発生当日、被災者らは、朝から機械設備の点検など行い、午後からは地下1階にある「濾過機械室」において、井戸水、温泉水滅菌用の薬液の補充作業を行った。
10日前にホテルの施設管理業務に配属されたばかりの作業者Aは先任の作業者Bから薬液の残量確認と不足時の補充方法の指示を受け、2人で井戸水処理系統の薬液(塩酸)の補充を行った。続いて、温泉水濾過系統の薬液(次亜塩素酸ソーダ)の補充作業を開始したが、Bは沈殿物で目詰まりしていた薬液用タンクの容量計修理のため現場を離れ、Aは1人で作業を進めた。温泉濾過系統の滅菌用薬液タンクに薬液と水をそれぞれ18リットルずつ補充するため、最初に水18リットルを入れ、次いで塩酸18リットルをポンプで投入し、約8リットル入れたとき、強い刺激臭と眼、喉の痛みにより異常に気付き、作業を中断し、Bに報告した。
Bは直ちに濾過室の扉を開放し、換気装置が作動したが、発生したガスがホテル地下および1階に充満し、A、B、ホテル従業員9名、宿泊客3名の計14名が激しい粘膜刺激症状を訴え、治療を受けた。
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | ||
1 | 化学物質の取り扱いに関する知識と経験のない者に1人で薬液補充の作業を行わせたこと | |
2 | 始めに行った井戸水処理系の補充薬液が塩酸であったため、続いて行った温泉水処理系の薬液も塩酸であると思い込んで、塩酸をタンクに投入したこと | |
3 | 塩酸(塩化水素35〜37%含有)は、特定化学物質の第3類物質であり、特定化学物質等作業主任者を選任して職務を励行させる必要があったのに、選任していなかったこと | |
4 | 有害物質を取り扱う関係作業者に、安全衛生教育を実施していなかったこと | |
(1) | 次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合すると有害な塩素ガスが発生することを周知徹底していなかった。 | |
(2) | 塩素および塩素ガスへのばく露防止のための保護具を備え付け、着用させていなかった。 | |
5 | 出張作業における安全衛生管理が不十分であったこと |
対策
この災害は、温泉水処理用の薬液取扱作業中に発生した塩素ガス中毒であるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | ||
1 | 薬液の補充作業について、薬液の確認を含む作業手順を定め、これに沿った作業を行わせること | |
2 | 特定化学物質等作業主任者を選任し、関係作業者の作業指揮、保護具使用状況の監視等の職務を励行させること | |
3 | 有害物質を取り扱う場所に、次のような措置を行うこと | |
(1) | 各薬液タンクに内容物質名を明示し、さらに、色、形状別に識別できるようにする。 | |
(2) | 作業場所に、薬品の取り扱いに関する注意事項、作業手順、混合危険、事故発生時の措置などについて掲示する。 | |
4 | 塩酸および塩素ガスへのばく露防止のために、必要な呼吸用保護具を備え付け、使用させること | |
5 | 関係作業者に、上記事項について周知徹底するほか、化学物質安全データーシート(MSDS)の活用などにより安全衛生教育を実施すること |