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労働災害事例

廃棄物タンク内に入り、硫化水素ガスを吸入して中毒

廃棄物タンク内に入り、硫化水素ガスを吸入して中毒
業種 その他の化学工業
事業場規模 30〜99人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:− 休業者数:4人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物) 保護帽を備え付けていない
発生要因(人) 危険感覚
発生要因(管理) 保護具を使用していない

No.100302

発生状況

 この災害は、廃棄物タンク内の貯蔵物をタンクローリー車に移送する作業中、タンク内に入り、貯蔵物から発生した硫化水素ガスを吸入して中毒にかかったものである。
 この貯蔵物は、リグニンスルホン酸化合物を主成分とするコンクリート用化学混和剤の保管中に生成した沈殿物である。
 災害が発生した日、この貯蔵物を産業廃棄物処理業者が所有するタンクローリー車に移送する作業を始めた。この作業のため、前日に、タンク内の貯蔵物の流動性を高めるためのばっ気撹拌を行った。
 移送の作業は、タンクローリー車の運転手が真空ポンプを操作し、委託元の担当者と業者の作業員とがタンクの上部に上がり、担当者がマンホールから空気ホースを入ればっ気撹拌を行い、作業員が吸引ホースで貯蔵物を吸引していた。吸引を開始してから15分後、貯蔵物がタンク底部に約10センチメートル残っている状態で、担当者がタンク内に入り残った沈殿物を吸引することとなった。そして、担当者は、タンク内のタラップでタンク底部まで降りたところ体調の異常を感じ、タラップを2段ほど上がりかけたが失神してタンク底部に転落した。この様子を見て救助のためタンク内に入った作業員も倒れ、さらに、救助に入った2名の計4名が中毒に罹ったものである。

原因

 この災害は、廃棄物タンク内の貯蔵物をタンクローリー車に移送する作業中、タンク内に入り、貯蔵物から発生した硫化水素ガスを吸入して中毒にかかったものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
1 コンクリート用混和剤に含まれる硫酸基から嫌気性の硫酸還元菌の働きによって硫化水素が生成され、沈殿物に溶け込んでいたものと推測されること。
2 貯蔵物をばっ気撹拌したことにより、貯蔵物に溶け込んでいた硫化水素がタンク内部に拡散したものと思われること。
3 同様の作業を従前から繰り返し行ってきた被災者らは、沈殿物が密閉状態のタンク内で硫化水素ガスが発生する知識がなかったこと。
4 廃棄物が貯蔵されている密閉されていたタンク内に入る前に、酸素濃度、その他硫化水素など想定される有害ガス濃度の測定が実施されず、換気も行われていなかったこと。
5 タンク内に入る際に、必要とする呼吸用保護具が備え付けられていなかったこと。
6 廃棄物タンク内で行われる作業についての手順が定められていなかったこと。
7 作業手順の作成、安全衛生教育を計画的に行うための管理体制が十分でなかったこと。

対策

 この災害は、廃棄物タンク内に入り貯蔵物から発生した硫化水素ガスを吸入したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 貯蔵物の排出は、タンク底部から排出できる構造とするなどタンク内に入る必要のないように改善することが望ましいこと。
2 作業前に、タンク内の酸素およびその他有害物の濃度を測定し、作業方法を定め、呼吸用保護具の使用など作業の安全を確保するための作業標準を作成すること。
3 作業開始前に、酸素および想定される有害ガス濃度を測定し、タンク内の換気を十分に行うこと。
4 必要数の呼吸用保護具を備え付け、その使用を徹底すること。
5 異常事の救助については、二次災害を防止するための措置を定め、救出用空気呼吸器、繊維ロープなど救出用に必要な器具を備え付け、避難訓練を実施する必要があること。
6 第二種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を終了した者を作業主任者として選任し、その者に作業を直接指揮させること。
7 廃棄物処理の作業に就かせる前に、その危険有害性と対策、保護具の使用方法および異常時の措置について教育を実施すること。
8 安全衛生管理組織を見直し、作業ごとに潜在する危険有害性を洗い出すシステムを構築すること。