酒造工場の発酵タンク内に落とした器具を取りに入って酸欠のため死亡
業種 | 酒類製造業 | |||||
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事業場規模 | 300〜999人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | その他の作業環境の欠陥 | |||||
発生要因(人) | 場面行動 | |||||
発生要因(管理) | 有害な場所に近づく |
No.100300
発生状況
この災害は清酒醸造工程中の「もろみ」仕込み準備作業中に発生したものである。災害はX酒造の「もろみ」(麹、酒母、蒸米および水を混合し発酵させてできるもの)仕込みタンクにおいて発生した。
季節労働者である被災者は、災害発生当日、午前5時30分頃から蔵内でタンク内の「もろみ」仲仕込み準備作業に取りかかった。
作業は、蔵内の4階部から蒸米をタンク内に送り込むホースの先端にサイクロン(蒸米拡散機)を取り付けたものを、タンクの上部中央に渡した架台の上に設置するものであるが、作業途中、誤ってサイクロンをタンクの中落とした。
タンクの中には泥状になった「もろみ」が底から30cmほどの深さに溜まっているだけであったので、被災者は同僚等に援助を求めず1人でサイクロンを取り出そうとした。タンク内部の酸素濃度測定も行わず、タンクの縁にはしごを掛けて、底部に降りた。タンクの底は発酵により酸欠状態になっており、タンク内に立ち入った被災者は酸欠空気を吸引して、タンクの底部に溜まっていた「もろみ」の中に仰向けに倒れた。暫くして、現場に来た職員が発見し救出したが、既に死亡ていた。
原因
この災害の原因としては次のようなことが考えられる。1 酸素欠乏危険場所である発酵中の「もろみ」仕込みタンクに立ち入り,酸素欠乏空気(酸素濃度11%〜13%と推定される。)を吸引したこと。
2 酸素欠乏危険場所である「もろみ」を入れてあるタンク内に立ち入るに際して、酸素濃度の測定を行わず、換気せず、空気呼吸器等の保護具を使用しなかったこと。
3 清酒醸造における「もろみ」発酵中のタンク内は酸素欠乏危険場所であり、タンク内に立ち入る場合には所要の措置を講じることなどの作業者に対する教育が行われていなかったこと。
4 「もろみ」仕込み準備工程で麹、蒸米の送給のためのホースに取り付けたサイクロンを仕込みタンク上に設置する作業方法が適切でなく、酸素欠乏危険場所であるタンク内に器具等を取り落としたこと。
5 酸素欠乏危険性のあるタンク内に物品を落とした場合等に際しての安全な作業手順が定められていなかったこと。
対策
この災害は、清酒醸造工程の「もろみ」仕込み準備作業で発生したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。1 酸欠危険場所を明確にし、酸欠危険場所には、立ち入り禁止の表示をすること。
2 作業の必要上やむを得ず酸欠危険場所に入る際には、酸素欠乏危険作業主任者の指揮にしたがい、換気を行い、必ず酸素濃度を測定すること。
3 酸欠危険場所の近くに換気装置及び酸素濃度測定器具を備えておくこと。
4 「もろみ」仕込み準備作業のような酸欠危険場所の周辺の作業は、作業のミスで、酸欠危険場所に立ち入る必要が生じないような安全作業手順を定めること。
5 「もろみ」タンクなど酸欠危険場所の周辺で作業に従事する者に対しても、酸素欠乏症の防止に関する教育を行うこと。
6 酸欠危険作業場所及びその周辺の作業については、常時作業の状況を監視する者を置くなど異状を早期に把握するために必要な安全管理体制を確立すること。特に高齢者の1人作業には留意すること。