冷凍機から漏洩した冷媒用アンモニアが食肉処理工場に流入し、アンモニア中毒
業種 | 肉製品、乳製品製造業 | |||||
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事業場規模 | 100〜299人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | はき物を指定していない | |||||
発生要因(人) | 憶測判断 | |||||
発生要因(管理) | 保護具を使用していない |
No.1076
発生状況
この災害は、食肉加工工程の冷却装置系に故障が起こり、機械室に据付けられていた冷凍機から冷媒用アンモニアが漏洩して食肉工場内に流入したことによって発生した。このアンモニア漏洩事故は勤務時間前の早朝に発生したため、出勤してきた労働者はすべて退避させ、排気装置等を用いて機械室及び食肉工場内の換気を行ってから作業を開始させたが、工場内のアンモニアガスの除去が不十分であったため解体作業者ら17名が2次災害としてのアンモニア中毒に被災したほか、工務係1名が液体アンモニアにより足指に凍傷を負ったものである。
災害発生当日における、アンモニア漏洩事故発生から労働災害にいたる経過は以下のとおりである。
午前5時30分ごろ、警備員が機械室の冷凍機の1台から霧状のアンモニアが漏洩しているのを発見。
午前6時ごろから9時30分ごろまでの間に、冷凍機からアンモニアの吹き出だしを停止し、機械室と食肉工場内の換気を実施。
午前9時55分ごろ食肉加工の前工程の作業者11名が作業開始(この時食品衛生上の観点から、排煙窓は閉め、解体室に大型の換気扇1台を残した以外は排気装置等を徹去した。)、同10時50分ごろ解体、包装作業者173名が作業開始。
解体作業者らは強いアンモニア臭を感じながらも上司に伝えないで作業に従事したところ、上記の災害に及んだ。
原因
この災害のうちアンモニア中毒の直接原因は、食肉加工工程の冷却装置系の故障が起こったため食肉工場内に流入・拡散したアンモニアガスを換気してから、退避命令を解除、作業を開始させたが、工場内のアンモニアガスの除去が不十分であったため解体作業者ら17名が2次災害としてのアンモニア中毒に被災したものである。また、アンモニアの漏洩防止のための緊急作業中の工務係員が、冷凍機のバルブを閉める際に熱遮断性の低い布製靴を履いて低温物体に接触したため、足指に凍傷を負った。
このうちアンモニア中毒発生の間接原因としては、次のことが挙げられる。
(1) 冷却装置系の電磁弁が起こり、液体アンモニアがガス化されないまま冷凍機に流入した状態で電源が入ったため、冷凍機内のコンプレッサーが破裂してアンモニアが機体との接合部から漏洩した。
(2) 食肉処理工場内のアンモニアガス濃度測定等による安全確認をしないまま、退避命令を解除し、作業を開始させた。
(3) 工場管理者にアンモニアの有害性に関する知識が欠如していた。
対策
工場に常設のアンモニアを冷媒とする冷却装置は多く、ひとたび高濃度のアンモニアガスが漏洩すると大惨事を招くおそれがある。本件災害は、冷却装置系の電磁弁に生じた故障により冷凍機にアンモニア液が流入し、入電したとたんに機内のコンプレッサーで破裂が起こってアンモニアが漏洩したことが一次原因と見られている。たまたま、午前5時30分に自動スイッチで入電するようにセットされていたため、ガス漏洩事故が就業時刻前に発生し、労働者の退避等の対策が容易に行われて被害の程度が比較的小さかったが、同種災害の防止を図るためには次のような対策の徹底が望まれる。
1 安全衛生管理の組織体制を強化するとともに、幹部職員及び関係労働者に対して、アンモニア中毒予防に関する教育、アンモニア漏洩時における退避、救護等の訓練を実施する。
2 冷却装置系設備の定期検査を励行する。
この検査には、例えば、電磁弁の内部における異物付着の有無の点検のような内部検査を含めたものとする。
3 電磁弁の故障が生じても冷却器へのアンモニア液流入の防止ができるようシステム設計を変更する。
4 アンモニアガスが漏洩した場合は、その除去を確実に行い、立入禁止解除はガス濃度測定等の客観的な判断に基づいて行う。