浴室の塗替え作業中、有機溶剤中毒
業種 | その他の建築工事業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | その他の建築工事 | ||||
災害の種類 | 中毒 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.987
発生状況
被災した塗装工Aの所属するB社は、3名の作業者で、塗装及び防水工事を請け負っているが、今回のような民家の塗装工事は、年間通じて1割程度である。今回の工事は、民家の屋根、外壁及び浴室の塗り替えであり、工事期間は1週間であるが、災害を発生した浴室の塗り替えは半日で済むものであった。
災害発生当日、午後から被災者1名が、この浴室塗り替え工事に取り組んだ。
浴室の大きさは、縦及び横とも1.75m、高さは2.4mあり、縦0.4m横0.8mの窓が一つ付いていたが、換気設備はついていなかった。
塗装予定箇所は、天井及び壁4面であり、まず、1時間程かけて、塗装面以外の箇所に塗料が付着しないよう養生作業を行い、続いて1時間程ローラーを用いて塗装作業を行い予定面積の半分ほど塗り終えた。
使用した塗料は、塩化ゴム塗料(トルエン1〜10%及びキシレン20〜30%含有)であり、これをラッカーシンナー(トルエン60〜70%、メタノール10〜20%及び酢酸メチル5〜10%含有)で希釈して用いていた。
1時間程の塗装作業中、被災者は有機ガス用防毒マスクを使用し、窓及びスライディング式ドアを開放して作業を行った。
この後、被災者は休憩するためいったん浴室を出たが、ドアを開放したときドアの裏側になる壁面部等を塗り終えてから休憩しようと思いなおし、再度浴室に入った。そして塗装作業を再開した直後、意識を失って倒れたものである。
この時は、有機ガス用防毒マスクは使用せず、ドアを開放したときドアの裏側になる壁面部等を塗装するため、ドアは閉じて作業を行ったものである。
休憩しに来ないので家主が浴室へ行ったところ、意識を失って倒れている被災者を発見した。
ちなみに、本事例の場合、ドアを閉じた場合の浴室の開口率(浴室窓の開放部面積/浴室総面積)が3%以下であるので、被災者の作業は、有機溶済中毒予防規則に規定するタンク等の内部における有機溶剤業務である。
建物内の塗装を行う際に、この事例のような災害が多発している。特に浴室のような狭い場所では、通風が不十分であるために、すぐに有機溶剤の濃度が高くなる。従って、被災者は、浴室内に戻った際、極めて高濃度の有機溶剤ガスを吸い急性中毒となったものである。
被災者Aは、有機溶剤についての労働衛生教育は受けていたが、有機溶剤作業主任者教育は修了しておらず、また、所属するB社について、有機溶剤作業主任者技能講習を修了している労働者はいなかった。
原因
[1] 有機溶剤を取り扱う作業者に、有機溶剤の有害性の認識が低いこと。[2] 換気装置を用いて換気を行わなかったこと。
[3] 通風が不十分な屋内作業場で、呼吸用保護具を使用せずに有機溶剤を塗布する作業を行ったこと。
[4] スライディング式ドアを前もって外さずに作業を行う等、作業の段取りが悪かったこと。(作業標準を作成していないこと。)
[5] 有機溶剤作業主任者を選任していないこと。
対策
[1] 作業者に対し、有機溶剤の有害性及び取扱い注意事項、保護具の性能及び取扱い方法を十分教育すること。[2] 通風が不十分な屋内作業場については、十分な換気を行わせること。
[3] 通風が不十分な屋内作業場で有機溶剤を塗布する作業を行う場合は呼吸用保護具を使用させること。
[4] 有機溶剤の作業標準を作成し、作業者に教育させること。
[5] 有機溶剤作業主任者技能講習を受講修了させ、作業主任者を選任すること。