建物外壁塗装作業中に有機溶剤中毒災害
業種 | その他の建築工事業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | その他の建築工事 | ||||
災害の種類 | 中毒 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.968
発生状況
災害発生工事は、A社からB工業(株)が「建物外壁の補修を含む再塗装工事」として請負い、C塗装工業(株)がその内の「建物外壁の再塗装工事」を下請けしたものである。塗装作業の方法は、
[1] ホースで外壁面を水洗いする。
[2] シーラー塗り(ガン塗きで行う塗料の下塗りのこと)
[3] ローラー塗り
の順序で行われた。
災害発生当日午前9時より、C塗装工業(株)の作業者DとEの2名が、元請のB工業(株)からの現場監督Fの指揮下、A社東棟と西棟の間の外壁のうち、西棟の東側壁のローラー塗りを始めた。Dは地上から高さ約2mの範囲を南端から北へ向かって塗装を行い、Eは抱き足場の地上第一の布に乗り、地上約2mから3.7mの範囲の塗装を北端から南に向かって行った。この間Fは、構内の見まわり等を行っていた。
午前10時頃一服し、同20分頃作業を再開した。同30分頃、Eが南端から北へ5.16mの位置で塗装作業中、意識を失い倒れた。この時Dは、地上第一の布に乗り北端から南へ約5mの位置で作業を行っていたが、Eが地上で倒れ、せき込んでいるのに気づき、地上に降りEを抱き、北端にあった脚立まで連れていき、脚立につかまらせた。その直後Dは、最初にEが倒れた位置付近で意識を失い倒れた。これを東棟の屋上でFが目撃し、救急車を呼んで救出した。
原因
使用された塗料は、トルエン、キシレンをそれぞれ最低10%含有するものであり、災害発生当日の塗料使用量と、事故発生現場の気積(高さ4m以下の部分)とから、有機溶剤濃度を見積もると、トルエン、キシレンのそれぞれの空気中の濃度は、182.4PPM、82.3PPMとなる。トルエン、キシレンの許容濃度は共に100PPMであり、混在成分が人体に対して相加的に作用するものと考えると、災害発生時の空気中の有機溶剤の混合気体は、許容濃度の約3倍であったと思われる。本作業場所のような通風の不十分な場所で塗装作業を行う場合には、有機溶剤中毒予防規則(以下「有機則」と言う。)第5条によって、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けるよう規定されているが、そのような措置はなされていなかった。
通風が不十分な場所において、有機溶剤を取り扱う業務に労働者を従事させたにもかかわらず、有機則第19条に基づき有機溶剤作業主任者を選任せず、行うベき職務を行わせていなかった。
有機溶剤作業主任者の行うベき業務の内容は、有機則第19条の2で
[1] 作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、作業者を指揮すること
[2] 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を1ヵ月を超えない期間ごとに点検すること
[3] 保護具の使用状況を監視すること
[4] タンクの内部において有機溶剤業務に作業者が従事するときは、有機則26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること
と規定されている。
また、当災害において、作業者が使用していたマスクが簡易マスクであり、有機溶剤に対して有効なものではなかったこと、使用していた手袋が軍手であったことも、災害発生の原因と考えられる。
対策
[1] 通風が不十分な場所、屋内等で塗装を行う場合には、最低限全体換気装置等を用いて強制換気を行うこと。[2] 前記の場合には、必ず送気マスク、または有機ガス用防毒マスクを使用させること。
[3] 有機溶剤作業主任者を選任し、その者に同作業主任者の職務を行わせること。
[4] 作業者に対し、有機溶剤業務の危険性について安全衛生教育を行うこと。
[5] 軍手ではなく、不浸透性の手袋を使用させること。