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労働災害事例

地下貯蔵庫の床塗装工事中の有機溶剤中毒

地下貯蔵庫の床塗装工事中の有機溶剤中毒
業種 木造家屋建築工事業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
建設業のみ 工事の種類 木造家屋建築工事
災害の種類 中毒
被害者数
死亡者数:− 休業者数:2人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.954

発生状況

住宅の新築工事において、地下貯蔵庫の床及び幅木の塗装工事を2日間の予定で行っていた。
 災害発生前日、午前9時頃よりA、B2名の作業者が貯蔵庫床の塗装に取りかかった。最初は壁の一部手直し及び幅木取合部の塗装を水性塗料を用いて約40分くらい行い、その後9時40分頃から床及び幅木の下塗りをシンナーで10%希釈した塩化ビニル樹脂エナメル(トルエン20〜30%含有)を用いて行った。下塗り(床全体)が午後2時30分頃)で終わり、30分程休憩した後、午後3時頃から約1時間30分程かけて上塗りシンナーで5%希釈した塩化ビニル樹脂エナメルで行った。
 下塗り及び上塗り作業については、貯蔵庫の階段を降りた突き当たり高さ2.8mの位置に設けられている換気扇(能力90m3/時)を稼動させて、床はローラーを用い、幅木は刷子を用いて塗装した。塩化ビニル樹脂エナメルのシンナー希釈及びバケツへの小分けは屋外で行っていた。しかし、防毒マスク等呼吸用保護具は使用しなかった。塗装作業はA、B2名が10〜15分交代で行い、1名が塗装作業をしている間に、他の1名が貯蔵庫から出て階段用開口部付近で待機していた。
 災害発生の前日の作業は、午後4時30分頃まで行い、上塗りが床全体の約3分の1終わったところで、その日は一晩中換気扇を稼動させたままにして帰宅した。
 災害発生当日は、前日と同じくA、B2名が午前9時頃から貯蔵庫の床の残り約3分の2の上塗り作業に取りかかった。作業方法、作業条件は前日と全く同様で、ローラ及び刷子塗り、10〜15分の交替制、能力90m3/時の換気扇の稼動、防毒マスク等呼吸用保護具未使用であった。
 Aが先に貯蔵庫に入り、階段を降りて右先端部分より上塗り作業を開始し、10〜15分毎にBと交替した。1時間30分程交替で塗装した後、午前10時30分頃に2名ともに貯蔵庫から外に出て30分程休憩をとった。その後11時過ぎから塗装作業を再開し、Bが先に貯蔵庫に入り作業を行った。作業再開後1回目の交替時にAが貯蔵庫内に入ったが、Bは2名で作業をすれば20分位で全部塗装作業が終了すると判断し、Bもそのまま残って作業を続けた。Aが床の塗装、Bが幅木部分の塗装を行っていたが、その後同時に2名とも気分が悪くなり床に倒れた。いつ倒れたか明らかでないが、12時頃工事発注者が2名とも床に倒れ「アー、アー」と唸っているところを発見し、屋外で作業をしていた植木職人2名に知らせて、救助し病院へ運んだ。

原因

使用していた塩化ビニル樹脂エナメルにはトルエンが20〜30%含有されており、第二種有機溶剤に該当する。(さらに使用に際し、シンナーで希釈していた)
 密閉設備又は局所排気装置の設置が困難である屋内作業場等の壁、床又は天井について行う有機溶剤業務に作業者を従事させる場合には、必要な能力を有する全体換気装置を設けるとともに、送気マスクは有機ガス用防毒マスクを当該業務に従事する作業者に使用させる必要があったが、その措置を講じなかった。
 因に、貯蔵庫に設けられていた換気扇の性能は、90m3/時=1.5m3/分であるが、有機溶剤中毒予防規則第17条で定められている全体換気装置の性能は、本件の場合、以下のように要求される。
 作業時間2日間で7.5時間、使用有機溶剤は塩化ビニル樹脂エナメル10,000g×30%=3,000g、及びシンナー1,500gであったため、1時間当たりの消費量はそれをれ400g、200gとなり、1分当たり換気量Qm3/分は、Q=0.04×(400+200)=24m3/分。従って1.5m3/分<24m3/分となり、全体換気装置としての必要な性能を満たしていなかった。
 事業者も有機溶剤の有害性については、一応の認識はあるが、建屋内の塗装をする場合においても通常窓等の開口部があり、過去に中毒等が発生していないこともあり、今回の作業についても換気扇があるので問題ないだろうと安易に考えて具体的注意、指示をしてなかった。

対策

1. 屋内作業場等の壁、床又は天井について行う有機溶剤業務を行う場合で局所排気装置の設置が困難な場合、適切な全体換気装置を設けること、また、既設の全体換気装置を使用する場合において適切な性能か確認すること。(本件の場合、24m3/分=1,440m3/時以上の性能を要す。)
2. 全体換気装置を設けた場合、作業者は送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用すること。
3. 作業者に対し、有機溶剤の有害性、呼吸用保護具の適切な使用方法について安全衛生教育を行うこと。