文化財をくん蒸作業中、臭化メチルおよび酸化エチレンで中毒となる
業種 | その他の清掃・と畜業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.883
発生状況
A社は、ねずみ、しろありなどの害虫防駆除を行っている事業場であるが、保存中の古い民家の害虫駆除作業を担当することとなった。作業は、民家全体をシートで覆い、くん蒸剤を発散させ、この間くん蒸ガスの濃度を測定し、有効な殺菌作用が生じる濃度が保たれていることを確認して十分なくん蒸を行った後、ガスを抜き、最後に覆いを撤去するという手順で行われるものである。
災害発生当日、午前10時までに、民家の周囲に仮設足場を組みシートを張る作業は終了した。その後、約2時間、くん蒸剤(臭化メチル約86%、酸化エチレン14%)を200kg投入し、シート内のガスの濃度測定が行われる予定であった。なお、この測定はあらかじめシート内に設置されたモニターチューブにより屋外で測定するという方法で行われ、作業者がシート内に入ることはないものである。
くん蒸剤の投与を始めて約1時間後、作業者BとCが、シートが破損している部分があるのに気付き、このままではくん蒸剤がシート外にもれ、殺虫効果のある濃度を保つことができないと判断し、シート内に入り補修作業を行うこととした。作業者Bは、自給式呼吸器を着用して仮設足場にのぼり、補修用テープで破損部分をつなぐ作業を行った。終了するまでに容量150lのボンベ3本を交換したがこの間は約1時間である。またCは自給式呼吸器がなく、防毒マスクを着用し、Bの補助作業を担当したが、実際シートの中に入った時間はわずかであった。
補修作業終了後BとCは休憩をとり、濃度測定作業を再開したが、Bは全身に火傷様の皮膚症状が出現し、またCは皮膚障害は生じなかったものの激しい頭痛と吐き気をもよおし、救急車にて病院へ運ばれ、医師による診察の結果、Bは酸化エチレン、臭化メチルによる腕、首などの皮膚火傷、Cは急性の酸化エチレン、臭化メチルによる中毒と診断された。
原因
[1] 高濃度のくん蒸剤が使用されているシート内に入ったこと。[2] Bは、腕、首などが露出された作業着を着用しており、また暑い時期での作業で発汗しており、この汗に気化していた臭化メチルが溶け、皮膚障害を生じたものと推定される。なおBは、自給式呼吸用保護具を着用したために中毒症状は生じなかった。
[3] Cは、防毒マスクを着用していたが、きわめて高濃度の臭化メチルなどを吸入したことにより、その効力が短時間で失われたため、臭化メチル、酸化エチレンによる中毒となったものである。
対策
[1] 原則としてくん蒸中はシート内に作業者を入れないこと。[2] 緊急時などでシート内へ立ち入る場合、防毒マスクを使用すること。なお、吸収缶の許容範囲を越える高濃度のガスにばく露されるおそれがある場合は、空気呼吸器を使用すること。
[3] 防毒マスクの使用に際しては、くん蒸中のガス濃度、吸収缶の破過時間などの防毒能力を十分に検討し、適正な吸収缶の交換を行うこと。
[4] 身体の露出が少ない保護衣などを着用させること。
[5] 緊急時に際しての作業標準を確立すること。