鉄鋼業における酸素欠乏症
業種 | 製鉄・製鋼・圧延業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.866
発生状況
○製造工程1 本鉄鋼工場では、電気炉で溶解された鉱石等(「湯」)をアルゴンガス精練(AOD)または真空脱ガス精練(VOD)し、炉外精練を経て、連続鋳造する工程と、鋼塊を製造する造塊(普通造塊という)の工程に分かれている。
2 造塊場は、稼働式の作業床(昇降フロアー)を下げた後、「湯」をいれた取鍋を天井走行クレーンでつって移動させ、注入管の上部から注ぎ入れるものである。
「湯」は注入管の下部から定盤の湯道を通り、鋳型の下側から鋳型の内部を上る。
○普通造塊の注入準備作業
1 段取り場で立てた状態の鋳型にサーミックスケーキという保温材を乗せ、それを固定するため鋼鉄製の押し枠をはめ込み、これを台車に乗せて造塊場に移動する。
2 造塊場では、中央に注入管、その周りに4個の鋳型を配置し、2組8個の鋳型を設置し昇降フロアーを下げる。
3 昇降フロアーの上では次の作業を行う。 | |
[1] 鋳型に鉄製のふたをする。 [2] 注入管にカオウールという窒素を遮断する材料を置く。 [3] 鋳型のふたの穴にアルゴンガス配管からのゴムホースのノズルを入れ、アルゴンガスを20分間封入する。アルゴンガスの送給は、元バルブの開閉で行う。 [4] アルゴンガス封入後、鋳型のふたを開ける。 [5] 鋳型内に異物がないか確認する。 [6] 「湯」の表面を大気に触れさせないため、テルマックスというパウダーおよび発熱材(袋状)を鋳型の上部につる。 |
1 災害発生時造塊場には8個の鋳型が置かれており、昇降フロアーは下がった状態であった。
2 アルゴンガスの封入は終了していた。
3 パウダー(袋状)を鋳型につる前であった。
4 作業の流れは以下のとおりである。
午後3時50分ころ普通造塊の注入準備作業を開始し、午後4時5分ころ鋳型のふたを外したところ、鋳型内に異物〔サーミックスケーキ(保温材)のかけら〕があるのを発見した。はじめは手工具で取り除こうとしたが取り除けず、仕方なくAが鋳型の内側にはしごを掛け、鋳型の底に降りてしゃがみこみ、底に落ちていた異物を拾い除去した。そのすぐ後、Aの作業を見ていたBがAの様子がおかしいのに気が付き、声を掛けてみたが反応がなかった。BはAを救出しようと鋳型の中に入りAを抱きかかえ、持ち上げようとしたところ意識不明となってしまった。
5 近くにいた作業者がすぐに異常に気付きサイレンを鳴らし事故を知らせ、Bをカギ棒により腰のベルトに引っかけて救出したが、Aはつなぎ服のため引っかけて救出することができず、呼吸用保護具を着用して救出し、病院に運んだものである。
原因
1 鋳型の中に物が落ちる可能性があり、それを取り除くことを前提にした異物の確認作業が作業標準の中に明記してあったが、安全に取り除く方法についての作業標準が規定されていなかった。2 鋳型内は酸素欠乏危険場所であるにもかかわらず、作業者に対する酸欠防止のための特別教育が行われていなかった。
3 普通造塊作業場所に酸素欠乏危険作業主任者を選任していなかった。
4 作業開始前に、鋳型内の酸素濃度を測定していなかった。
対策
1 鋳型内に物が落ちることのないような措置を講じるなどして、原則として、作業者を鋳型の中にいれないこと。2 鋳型の中の異物を安全に取り除く方法について作業標準を定めておくこと。
3 関係作業者に対して、酸素欠乏危険作業についての特別教育を行うこと。
4 普通造塊作業場所に酸素欠乏危険作業主任者を選任すること。
5 鋳型内の作業が生じた場合には、作業開始前に鋳型内の酸素濃度を測定するなど、安全を確認すること。