ワゴン車でドライアイスの運搬作業中の酸欠
業種 | 機械器具設置工事業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 機械器具設置工事 | ||||
災害の種類 | 酸欠 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.858
発生状況
本災害は、工事請負先の工場で使用している機械の回転軸冷却に使うドライアイスをワゴン車で運搬作業中、ドライアイスから発生した二酸化炭素により酸素欠乏となり、死亡したものである。被災者Aが勤務していた甲株式会社(以下甲社と記す)は、主に化学プラント等を建設する設備工事業者であるが、新たに乙株式会社(以下乙社と記す)の構内設備の保全工事を行うこととなり、Aは乙社との連絡折衝業務を担当していたため、災害発生の前日に乙社側から工事の仕様、現場の状況の説明を受けた。
災害発生当日は日曜日でAは休日であったが、Aは現場の再確認のため、乙社に訪れていた。
乙社の生産ラインの一部の機械は24時間連続運転を行っており、部品の一部を新品に交換する時には回転軸のすり合わせが足りず(いわゆる「あたり」が出るまで)発熱することがあった。
その場合には潤滑油の焼き付けを防ぐため急いで冷却する必要があり、冷却の方法としてドライアイスを砕いて軸受に散布していた。
乙社では、通常はドライアイスを特定の業者から購入し搬入させていたが、災害発生当日は日曜日で業者が休日であり、別の購入先を手配する必要が生じたため、偶然来社していたAに購入を依頼した。
Aは甲社所有の9人乗りワゴン車を運転し、甲社の取引先であるドライアイス販売会社に向かった。
このワゴン車は、乙社構内で別の工事を行うためにきていた甲社の作業者の送迎用車両であった。
Aは午後2時過ぎにドライアイス販売会社に着き、包装紙と新聞紙で二重に包んだドライアイス300kg(25kg×12個)をワゴン車の荷室に積み、午後2時15分から20分ごろ乙社に向け出発した。
乙社ではAの帰りが遅いため連絡を取ろうとしたが所在がつかめず、目的の店が閉まっているため他の店を捜しているものと考えて、別途にドライアイスの購入先を捜し当てていた。
午後6時30分ごろになってもAが帰ってこないので、別の送迎車を手配するため、甲社の作業者の1人がAが乗ってきた軽自動車を運転し甲社に向かう途中、対向車線の道路脇に非常灯を点滅させ駐車しているワゴン車を発見した。
中を見たところ、運転席から助手席に身を乗り出すように倒れ、意識不明のAを発見し、救急車を呼んだもののAは既に死亡していた。
ワゴン車が発見された場所は、ドライアイス販売会社から約3.2km離れた所であり、Aの死因は酸素欠乏による窒息で、推定死亡時刻は午後3時ごろであった。
発見されたときには、ワゴン車の窓はすべて閉められ、エンジンがかかった状態であり、エアコンが作動していたものの、ガラス窓には霜がついていて、ワイパーが作動していた。
ワゴン車は定員9人の3列の座席の後ろに幅155cm、奥行150cm、高さ133cmの荷物用スペースがあるもので、ワゴン車内部の形状を直方体と仮定すると、幅155cm、奥行き410cm、高さ133cmであり、座席等の室内設備の体積を無視した近似値では、室内の容積は約8.45m3となる。
その後の調査により、現場付近の午後3時の気温は37.2℃であった。
原因
(1) ドライアイスを運搬するに際し、荷室と運転席が分かれていないワゴン車を使用し、窓を開ける等の換気措置を講じなかったこと。(2) ドライアイスを大量に取り扱うに際し、適切な作業標準等が作成されておらず、運搬時の危険について認識がなかったこと。
対策
(1) ドライアイスの取り扱い業務について作業標準を作成し、自動車による運搬作業については、乗員室と荷室が分離され、その間の空気還流のない車両による方法によること。(2) 関係作業者に作業標準を徹底し、確実な酸欠防止対策が講じられるようにするとともに、酸素欠乏症の防止についての安全衛生教育を十分に行うこと。