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労働災害事例

アクリルアミドを全身に浴びて大量吸入により死亡

アクリルアミドを全身に浴びて大量吸入により死亡
業種 無機・有機化学工業製品製造業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:1人 休業者数:1人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.849

発生状況

被災者は、主に化学プラントの定期点検、補修、清掃等の下請作業を行う会社(従業員6名)の作業者であり、アクリルアミド水溶液を製造する事業場(以下アクリルアミド工場とよぶ)構内にある精製塔を点検、清掃する作業を2次下請として請け負い行っていた。
 当該工場においては、アクリロニトリル水溶液(濃度99.5%)と純水とを反応させてアクリルアミド水溶液(濃度50%)を製造している。
 CH2CHCN+H2O→CH2CHCONH2
 この反応によって生成したアクリルアミド水溶液には微量の不純物(ジアクリルアミド)が含まれているため、工程の最終段階に設けた精製塔において弱アルカリ下で分解している。本災害はこの精製塔において発生したものであり、塔の内部は、図に示したように2つの目皿によって上段、中段、下段の3つに仕切られている。
 災害発生前日、塔内でアクリルアミドが重合し、この重合物により詰まりが生じたので精製塔の運転を停止して、緊急弁(図の[A])からアクリルアミド水溶液を抜き、さらに発熱により重合反応が進むのを防ぐため、冷却水を塔の上部より入れ緊急弁から流すという水洗作業を続けていた。この作業は災害発生当日の朝7時まで行っていた。この間、精製塔下段の2本の配管のうち[1]には重合物が詰まっており、最初から液は流れ出ず、[2]からは最初のうちは液が流れ出ていたが、しばらくすると流れ出なくなっていた。
 アクリルアミド工場では、災害発生前日に元請事業場Aに対して翌日すぐに精製塔内の点検作業を行うように依頼した。事業場Aは一次下請Bに同作業を依頼し、Bは作業の一部を二次下請Cに行わせることとした。実際には事業場Bの作業者1人がCの作業者4人に指揮命令を行い作業に当たることとなった。
 作業は具体的には、上段、中段、下段の3個所のマンホールを開放し、塔内部の重合物を取り除き洗浄を行うというものであり、アクリルアミド工場で設定していた危険度では3段階のうち最も高いランクであった。作業がこのランクの場合、作業開始前に発注者、元請、下請を交えた個別会議を開催することになっていたがその会議は行われず、アクリルアミド工場は事業場Bの作業者に対して、重合箇所が塔下段のボトム付近であること等を説明し着工許可を行った。
 5人の作業者は現場で、マンホールを開ける際に内容物の吹き出しに注意すること等簡単なミーティングを行ったのち作業に取り掛かった。作業者の服装は作業着、ヘルメット、革手袋であった。
 手順としては最初に上段と中段のマンホールから開始することとし、まず塔の上方へ登り上段マンホールを開放したが、何も吹き出してこなかった。次に中段マンホールのボルトを外し、いったんふたを開けたところ、中からゲル状のアクリルアミド重合物が出てきたため、中段マンホールを再び閉じボルトを1本だけ閉めた。次に下段マンホールを開放することとし、被災者D、Eの2人で地上に置いた高さ1.3メートルの階段状の作業台に乗り作業に取り掛かった。
 16本あるボルトのうち1本を残しすべて外して、残り1本を少し緩めた。指揮監督者がマンホールの隙間から内部をのぞいたところアクリルアミド重合物の白い個体がマンホールを塞ぐような状態になっているのが見えたが、その個体が飛び出してこないものと判断し、被災者Dに対しボルトを外してマンホールを開けるよう指示した。Dがボルトを外しマンホールを開けると同時に、マンホールからアクリルアミド水溶液および重合物が一挙に噴出し、噴出物を全身に浴びた被災者DはEとともに作業台から地上に転落した。被災者Dはすぐ病院に運ばれたが、翌日アクリロニトリルの大量吸入により死亡した。
 また、被災者Eは転落した際の負傷により1カ月の入院を要した。

原因

(1) 精製塔下部が重合により詰まり、アクリルアミド水溶液がその内部に残留しているおそれがあったにもかかわらず、塔内における当該物質の濃度・温度・圧力等の測定・調査等を行い、当該物質が確実に排出されたことを確認することなく精製塔の点検・清掃等の作業を開始したこと。
(2) 作業開始前に発注者、元請および下請が、作業の危険性、作業手順、安全な施工方法等についての打ち合わせを行う工事個別会議を開催することになっていたが、この会議を開催せずに着工許可が出され作業が行われたこと。
(3) 作業に従事する作業者に不浸透性の保護衣、呼吸用保護具等を使用させなかったこと。
 なお、今回のようなアクリルアミドを取り扱う設備を修理、補修するために設備を分解したり内部に立ち入る作業については、特定化学物質等障害予防規則第22条において留意すべき事項として主として次のような事項が規定されている。
(1) 作業を行う設備から化学物質を確実に排出し、作業箇所に流入しないようにすること。
(2) 測定その他の方法により作業を行う設備の内部について化学物質により作業者が健康障害を受けるおそれのないことを確認すること。
(3) 従事する作業者に不浸透性の保護衣、呼吸用保護具等を使用させること。

対策

(1) 特定化学物質等を取り扱う設備の点検・清掃作業等を行う場合は、当該設備の内部から特定化学物質等を確実に排出し、内部に残留していないことを確認してから作業を開始すること。
(2) 危険の高い作業においては、作業開始前に発注者と受注者との間で十分情報交換を行い、必要に応じて作業方法に関しても調整を行うこと。
(3) 塔内に残留している化学物質等が噴出することのないようマンホールの開放作業については、長いボルトを使用して徐々にマンホールを開放する等の噴出防止措置を講じること。
(4) 工事の指揮監督者には、特定化学物質等による作業者の健康障害の予防について必要な知識を有する者を選任すること。
(5) 作業に従事する作業者には、不浸透性の保護衣、呼吸用保護具等を使用させること。