タンク内面酸性処理作業中の有機溶剤中毒
業種 | その他の金属製品製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.847
発生状況
(1) 災害発生前日、タンク(内径2.5m、高さ4.75mの円筒型タンク、ステンレス製)の水圧試験を終了した後、被災者と上司Aは明日行うタンク内の溶接箇所に光沢を出すための酸洗作業について打ち合わせを行った。段取りとしては被災者が中心となり、他の2名の作業者と共同で作業を行うこととし、作業方法については、まず、被災者が酸性ガス用防毒マスクを着用して横倒しにしたタンク内部にマンホールより入り、タンク内部の両脇部分(鏡板部分;タンクを立てたときに上部、下部となる半楕円形の部分)に刷毛を用いて硝塩系溶剤を塗布する。次にタンク内に硝塩系溶剤を流し込み、3名でタンクを回転させ胴体部分の酸洗を行い、酸洗作業を終了するというものであった。ここでいう硝塩系溶剤とは、2種類の薬品X、Yの混合液であり、それぞれの成分および含有量はX(硝酸47%、フッ酸12%、水41%)、Y(メタノール15%、活性剤9%、けい酸塩3%、水73%)であった。X、Yはそれぞれ20、18lのポリエチレン容器に入っており、それらの全量を混合し、酸洗剤として使用する。
なお、これらの容器にはX、Yの名称のみが表示されているだけで、成分および含有量は記載されていなかった。また、X、Yの製造者からは事業者に対して使用書(使用方法等に関する説明書)が交付されており、それには硝酸、フッ酸が含有されていることは記載されていたが、その含有量および他の成分についての記載はなかった。
(2) 災害当日、被災者を含む3人で、酸洗作業を開始した。前日打ち合わせした鏡板部分に硝塩系溶剤を塗布した後、タンク内に硝塩系溶剤を流し込み、タンクを回転させ胴体部分の酸洗作業を行うという順序とは逆に作業を行った。
まず、タンク内に硝塩系溶剤38lをマンホールから流し込み、30分ほどかけてタンクを回転させた。次に被災者は酸性ガス用直結式小型防毒マスク、不浸透性の保護衣、保護手袋、保護長靴を着用し、マンホールからタンク内に入り鏡板部分に硝塩系溶剤を刷毛により塗布した。この間費やした時間は5分ほどであった。
なお、この作業を被災者等が行った際、作業を直接指揮する者はいなかった。
(3) その後、被災者はタンクから出て、近くの水道で手や顔を洗った後、3〜4m歩いた所で突然倒れ、意識不明となった。
(4) 救急車により病院に運び医師の手当を受けさせた。医師による診断結果は有機溶剤中毒であった。
原因
(1) タンクを回転させて酸洗作業を行った後、被災者がタンク内に立ち入る作業が生じたにもかかわらず、立ち入る前にタンク内の換気を十分行わなかった。また、被災者に送気マスクを使用させなかったこと。(2) 硝塩系溶剤に含有されていたメタノールに関する情報が事業場に提供されておらず、メタノールに対する中毒防止対策が有効に講じられなかったこと。
(3) 作業が適切に行われるよう作業主任者が作業を直接指揮しなかったこと。
(4) 作業標準を作成し、それに従い作業を行わなかったこと。
対策
(1) タンク内で硝塩系溶剤を使用した後、タンク内に立ち入る場合には、タンク内の換気を十分行うこと。また、タンク内に立ち入り有機溶剤業務を行うときは送気マスクを使用させること。(2) 硝塩系溶剤にかかわる必要な表示(適正な内容のラベル表示、安全データシートの交付)を徹底させること。
(3) 有機溶剤および特定化学物質作業主任者を選任し、作業を直接指揮させること。
(4) 作業標準を作成し、周知徹底させること。