フロン洗浄槽内での酸欠災害
業種 | 電気機械器具製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.843
発生状況
本災害は通信機械器具を製造する工場において、通信機械器具部品(以下、部品という)を洗浄するフロン洗浄機のフロン洗浄槽の底に落ちた部品を、部品洗浄工程の作業責任者である被災者が手で拾い上げる作業時に発生した。その際フロンガスにより空気が置換され酸欠状態であるフロン洗浄槽の水面付近に、顔面を近付けたため、被災者は窒息し死亡するに至ったものである。 (1) フロン洗浄機について | |
[1] 工場では、超音波式のフロン洗浄機が通信機械部品の脱脂洗浄のために設置されていた。 [2] フロン洗浄機は、その内部の洗浄槽に洗浄される部品がチェーンコンベヤーにより搬入され、自動的に洗浄された後、またチェーンコンベヤーによって搬出されるシステムを持つものである。チェーンコンベヤーには、金属製の搬送バケット(35cm×35cm)が取り付けられており、搬送バケットには、部品が20〜30個入る。 [3] 大きさは1.3m×4.8m×2.6mで、気積は約16m3であった。 [4] 処理能力は月間約5〜9万個。フロン洗浄槽は、全部で5槽あった。 [5] 換気装置として換気能力が10m3/分である換気扇が1個、フロン洗浄機には取り付けられていた。 | |
(2) 使用していたフロンについて | |
[1] 名称 トリクロロトリフルオロエタン [2] 組成式 Cl2F・CClF2 [3] 比重 1.56 [4] 沸点 47.57℃ [5] 蒸気密度 6.46 [6] 使用量 1カ月当たり2,500kg | |
(3) 被災者の災害発生時までの行動 | |
[1] 災害発生当日、所定労働時間内(午前8時から午後5時)は通常どおり、部品の洗浄作業に従事した。 [2] 部下1名とともに、午後5時から2時間残業する予定であった。 [3] 午後6時30分ごろ、部下が洗浄機のところへ行くと、通常閉まっているフロン洗浄機の「点検窓」(側面にあるガラス窓)が開いていたので不審に思い、フロン洗浄機の中をのぞいたところ、被災者がフロン洗浄槽の第2槽と第3槽にうつぶせになって倒れていた。 [4] 部下は他の工程で作業していた同僚とともに、フロン洗浄機内部から被災者を直ちに救出したが、当初より意識が全くなく、呼吸も行っていなかった。死亡確認時刻は午後7時30分であった。 | |
(4) 災害発生時におけるフロン洗浄機の状態 | |
[1] 当該フロン洗浄機による洗浄作業は午後6時で終了し、機械の運転を停止させていた。 [2] 主電源および各槽のヒーターは入っていた。 [3] 換気装置は停止していた。 [4] 第1〜第4槽にはフロンが入っており、総量は710lであった。 [5] 開口部は「点検窓」(0.61m×0.72m)および「部品搬入口」(0.68m×0.4m)のみであった。 [6] 気密性を高めるため、第2−第4槽の上部にはめ込んであったガラス製のフタ(通常閉まっているもの)3枚のうち2枚が外されていた。また、機械部品が9個フタの上に放置されていた。この機械部品は、浸清・揺動洗浄の際、搬送バケットより落下したものである。この9個の機械部品のほかに、災害発生当時第1〜第4槽の底には105個落下していた。 | |
(5) 酸素濃度について | |
[1] フロン洗浄機内部の酸素濃度測定は、工場において1度も実施されていなかった。また、酸素濃度測定器具および呼吸用保護具の備え付けもなかった。 [2] 災害発生時と同様の状態で酸素濃度を測定した結果、フロン洗浄槽の酸素濃度は、いくつかの測定地点で酸素欠乏状態であるところがあった。 | |
(6) フロンの有害性に関する認識 フロン(トリクロロトリフルオロエタン)が有機溶剤であるとの認識から、有機溶剤作業主任者を選任していた。しかしながら、被災者の上司および総括安全衛生管理者は、酸素欠乏の危険場所との認識がなかった。 |
原因
[1] 酸素濃度測定器具が備え付けられていなかったため、酸素濃度測定を行わず、液体フロンより気化したフロンガスにより、空気が置換されていたフロン洗浄槽の内部の酸素欠乏場所で、作業を行ったこと。[2] フロン洗浄槽内部が酸素欠乏場所であるという認識が、総括安全衛生管理者をはじめとする管理者に欠落していたために、第一種酸素欠乏危険作業主任者の選任がされておらず、酸素欠乏症等防止規則に定める職務を行う者がいなかったこと。
[3] 事業者の被災者に対する、酸素欠乏症等防止規則に定める第一種酸素欠乏危険作業特別教育が行われていなかったため、フロン洗浄槽内部が酸素欠乏場所であるとの認識がなく、その場所で長時間、部品を拾い上げる作業を行っていたこと。
対策
[1] 作業開始前に、酸素濃度測定器具により酸素濃度測定を行うこと。[2] フロン洗浄槽内部において、作業を行う場合には、酸素濃度が18%以上となるように換気を行うこと。
[3] 第一種酸素欠乏危険作業主任者を選任の上、酸素欠乏症等防止規則の職務を行わせること。
[4] フロン洗浄槽内で作業する作業者に対して第一種酸素欠乏危険作業特別教育を実施すること。
[5] フロン洗浄槽内部に作業者を立ち入らせる場合には空気呼吸器を使用させるとともに、当該作業者の作業を監視するための監視人を配置すること。