次亜塩素酸ソーダ液のタンクに塩化アルミニウムを誤って注入し、塩素ガス中毒に
業種 | 特定貨物自動車運送業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.842
発生状況
A社の運転手Sは、B社へ排水処理に用いる塩化アルミニウム溶液(AlCl3として25%溶液)の運搬命令を受け、10トンのタンクローリーに当該溶液を積み、会社を出発。B社に着いたのは午前6時50分ごろであった。B社の事務所にいた守衛に対し、運んできた塩化アルミニウムをどこに入れるのか尋ね、納品伝票を渡したところ、入れる場所は裏の方だと言われ、運転手自ら歩いて捜しに行った。
結局、捜しても見つからなかったため、再度守衛に尋ね、守衛にタンクローリーを誘導案内してもらい、タンクのある場所と送給口について説明を受けた。その後、守衛は事務所に戻り、まもなく帰宅した。
S運転手はタンクローリーを所定の場所に止めてから原料室へ入り、何ら表示のないタンク(次亜塩素酸ソーダ入りのタンク:FRP製、直径2.9m、高さ4.4m)の残存量を見て、タンクローリーの塩化アルミニウムが十分入ることを液面計により確認し原料室を出た。このときタンク内の残存次亜塩素酸ソーダ溶液は14.6tであった。
原料室の外側の屋外にある表示の何もないタンクへの送給口(フレキシブルホース)にタンクローリーの排出ホースを接続し、タンクローリーのコンプレッサーを稼働させ、午前7時30分ごろ、タンクに塩化アルミニウムを注入し始めた。
注入開始後、S運転手はタンクローリーの運転室で休んでいたが、午前7時40分ごろ、周りで臭いと騒いでいる異変に気付き、運転席より出たところ、原料室のタンク上部より屋外へ配管されている通気孔から黄色いガス(塩素ガス)が吹き出ているのを見つけたため、塩化アルミニウムの注入を停止し、エンジンを止め退避した。この時までにタンクへ注入した塩化アルミニウムの量は2.4トンであった。
B社の従業員、近隣事業場および地域住民等が拡散された塩素ガスにより目の充血、涙、せきこみ、のどの痛み、息苦しさ等を訴え各病院に収容された。
所轄警察署、消防署はB社周辺を警戒区域に指定して避難を呼び掛けるとともに、午前10時30分ごろ、中和剤(水酸化ナトリウム水溶液)をタンクへ投入し、塩素ガスの発生を止めた。警戒区域が解除されたのは、災害発生から7時間近く経過した午後2時半であった。
塩素ガスは300m四方以上に及ぶ大気に拡散し、被災者109名を出したほか、付近の庭の松、植木、ドクダミなどが変色して枯れた。
塩化アルミニウムを入れるべきタンクは次亜塩素酸ナトリウムのタンクから50m離れた所に排水処理設備の1つとしてあった。なお、これら2つのタンクへの送給口とタンクローリーのホースをつなぐ継続部分は同型であった(直径65mm)。
原因
(1) B社守衛が塩化アルミニウムを運搬してきたA社運転手Sに塩化アルミニウムのタンクと次亜塩素酸ソーダのタンクを間違えて教えたこと。このため次亜塩素酸ソーダの入ったタンクに塩化アルミニウムを注入することとなり、両者が反応し、塩素ガスが発生した。塩素の性質については表1のとおり。〔守衛が間違えた経緯〕
守衛の勤務時間は夕方4時半から翌朝8時までであり、次亜塩素酸ソーダの納入時刻はいつも早朝の勤務時間内であった。次亜塩素酸ソーダを初めて納入にきたタンクローリーの運転手には、守衛がタンクの場所等へ案内をしていた。
塩化アルミニウムについては、通常、昼間搬入されており、資材担当者がその搬入案内を行っていた。守衛が入社以来10年間1度も勤務時間内に塩化アルミニウムが納入されたことがなかったため、守衛は当該物質のタンクの場所も知らず、運転手の案内もしたことがなかった。
以上の経緯から早朝到着した塩化アルミニウムを次亜塩素酸ソーダと勘違いをして、タンクローリー運転手Sに次亜塩素酸ソーダタンクを間違えて教えたものである。
(2) 次亜塩素酸ソーダのタンクへの内容物等の表示とタンクへの送給口についての行き先の表示が一切なかったこと。また、タンクへの誤注入を防ぐため、送給口の大きさをタンク別に変えていなかったこと。
(3) B社守衛が次亜塩素酸ソーダ、塩化アルミニウム等についての知識が全くなく、教育も受けていなかったこと。
(4) 初めてA社にきたS運転手がB社への塩化アルミニウムの搬入について十分引き継ぎを受けなかったこと。
対策
(1) 化学物質等の取扱いについて 納品の受取りを含む化学物質取扱い業務について取扱い要領を作成し、取引先の運転手を含む関係作業者に周知徹底させるとともに化学物質の危険有害性等について安全衛生教育を実施すること | |
(2) 化学物質等の設備について | |
[1] 貯蔵タンク、投入口、配管設備等については、必要に応じ内容物の名称、取扱上の注意事項、バルブの開閉、配管区分等の表示を行うこと [2] タンクの送給口はタンク別に大きさを変えること [3] 点検責任者を指名し、定期的に設備の点検を行うこと | |
(3) 安全衛生管理体制 化学物質等取扱責任者を指名し、職務と権限を明確にすること |